16話
「始め!!!」
ディーンの合図とともに模擬戦が始まった!
「うおおおおお!」
ルディがいきなり声を出して突っ込んでくる!
―ボアかよ!!
その突進は確かに俺にボアのそれを思い出させた!
「うおおおおおおおおおお!」
ルディは剣を大きく振りかぶる!!
―だが、これなら受けることができる!
ルディの振り下ろす剣に対して、俺は剣を横にして受ける!!
ポキーーン
―は?
直後、ブォンっと俺の横を剣が通りすぎる!
――あぶねええ
咄嗟のことで回避するのが遅れた。剣を受けた分、軌道がズレたのが幸いした。
俺の模造剣は真っ二つになってしまった。
「待て、ルディ!剣が折れた!!」
俺はルディに声をかける!!
「うおおおおおおおおおおおおおおお!」
だが、ルディは聞いてはいない!構わずこちらへ突進してくる!
「おい、だから待てって!!」
しかし、ルディはこちらに突っ込んでくる!!
―エミリーがいるからか!
俺は短く舌打ちをする。
だが、すぐ目の前にルディが迫って来ている!!
―どうする?
このまま剣が折れている以上、このまま模擬戦を継続するのは困難だ。そもそもこの模擬戦の趣旨は、俺の剣の腕前を測定すること。これ以上の模擬戦の継続は無意味だろう。
―やむをえん!!
「だから俺の話を聞けと言っている!!!」
―ズビシ!!!!
突進してくるルディの横に素早く体捌きをして回り込み、その頭にチョップをかます!!!
「―許せ、ルディよ。」
「―あへえ?」
変な声を出して、ルディはその場に崩れ落ちた。
「んん!???」
ディーンの方を見ると、呆気にとられているようだ。
「・・・・」
エミリーは口を手で覆っており、そのまま硬直している。
「―すまないが、ポーションをもらえないか?」
たんこぶ程度で済んだと思うが、念のためポーションをふりかけておく必要がある。
「あ、ああ。そうだね!!」
すると、ディーンは慌ててこちらに来て、ポーションを渡してくる。
俺はそれを受け取り、ルディの頭にふりかける。血が出たりはしていないが、俺は入念にルディの頭にポーションをふりかける。
「―よし。」
これくらいふりかけておけば、内部にもポーションの効果は浸透するはずだ。
「ね、ねえ。大丈夫なの?」
おそるおそるといった感じでエミリーが訊ねてくる。
「ああ。おそらくはな。」
俺はエミリーに短く答える。
「それにしても、何があったんだい?」
ディーンもエミリーも困惑しているようだ。
「ああ。ルディの一撃で俺の模造剣が折れてしまったからな。これ以上は試合をする意味がないと判断した。正直、ルディにこのような馬鹿力があるとは思わなかった。」
俺は状況を説明することにする。
「いやいや、おかしいでしょ!急にルディが倒れたように見えたわ!」
エミリーが口を尖らせる。
今後、ハーヴェルに恋愛感情を抱く可能性があるとはいえ、さすがに今の段階ではルディのことが心配なのだろう。
「大丈夫だ、大した怪我ではないはずだ。」
俺はエミリーを安心させる。
「いや、そうじゃなくって・・・!」
エミリーが再び口を尖らせる。
「イシュバーン君、ルディ君に何かしたのですか??」
ディーンが難しそうな顔をして俺に聞く。
「何って、ただのチョップだが・・・。」
「ただの、チョップ???」
エミリーまでも難しそうな顔をする。
「そうだ。ただの、チョップだ。」
そこに嘘偽りはない。本当にただのチョップである。
「・・・イシュバーン君がそう言うなら、きっとただのチョップなのでしょう。」
ディーンが妙な言い方をするが、俺はそれ以上の説明をすることができない。
「うそよ!あなた、何か魔法を使ったんじゃないの?」
エミリーが妙なことを言い出した。
「おいおい、嘘も何も、何でこんな所で魔法を使わなければならないんだ?大体、俺が何の魔法を使用したというんだよ?」
俺はエミリーを見据える。
「それは・・・。」
エミリーは口ごもる。
「まあ、今回は剣を使った模擬戦だったからな。そういう意味ではルディに申し訳ない気もするが、そもそもコイツが話を聞かないのが悪い。」
要するに、俺の正当防衛のはずという主張だが、どうやらディーンもエミリーも納得していないようだった。




