15話
「―さて。イシュバーン君はどの程度の腕前なのかな?これまでに剣は?」
ディーンが俺に聞いてくる。
「素振り程度はやったことがある。模擬戦も・・・多少は。」
俺は特に誇張するわけでもなく、自分の実力を言う。
「よし。それじゃあ、ルディ。一つここはイシュバーン君と手合わせといこうじゃないか。」
ディーンがルディにそんな提案をする。
「―イシュバーンと。先生、分かりました!」
どうやらルディは乗り気であるらしい。
すると、こんばんは!という元気な挨拶が響く。
「おや?エミリーが来たようだね。」
そう言うと、ディーンはルディの方を見る。
「ええ、そのようです。イシュバーン、悪いけど本気でいくぜ。」
こういうときに無駄に本気を出してくるのがルディという男であるのだ。
「―やれやれ。まあできる限りのことはするとしよう。」
そう言って俺は模造剣を手にする。
「先生、こんばんは! ―あれ?ルディ、その方はお友達?」
ポニーテールの活発な女の子といった印象を受ける。エミリーがこちらに来てルディに俺のことについて聞いてきた。
「やあ、エミリー。こいつはイシュバーンさ。知っているだろう?イシュト様の兄にあたる。」
イシュトには様付けで、俺は呼び捨てであるのが何ともルディらしい。
「・・・イシュバーンってあの・・・。」
エミリーが複雑な顔をする。
―そういえば、エミリーはイシュトと同じ学年だったな。
「俺はイシュバーンという。愚弟が世話になっているようだな。」
俺はエミリーに簡単に自己紹介を行うことにした。
「え、ええ。イシュト様から多少は伺っています・・・。」
エミリーの顔はとても微妙である。
「一体イシュトが何を言っているのかは知らないが、大丈夫だ。とって食ったりはしない。」
とりあえず俺は自分が安心できる相手であるということを知らせる。
「おいおい、イシュバーン。そういう意味じゃないんだって。」
ルディが呆れたような顔をする。その顔からため息にコンボが続くのがルディという男である。
「ではどういう意味なのだ?」
ルディに言葉の意味を確認することにする。
「―はあ。いいよ、さっさと模擬戦をしようぜ。」
想像通り、ルディは大きなため息をついて話を打ち切り、模造剣を手にする。
―まあ、いいか
とりあえず、剣を使った模擬戦をするらしいので、俺は屈伸をしたりして体を少しほぐす。
「何してるんだ?」
すると、ルディが怪訝な顔をしてそんなことを言う。
「何って、準備運動だろう?」
通常の武術であればあえて準備運動をせずとも問題ないだろうが、剣を使うとなれば、予め体をほぐしておかないと少々不安であるのだ。とはいえ、もちろん、俺は普段の鍛錬の前でも俺は入念に準備運動を行っている。やはり慣れた武術であっても体をほぐしておくことで、速やかに動くことができるのである。
「ふーん?」
どうやら、ルディに準備運動は必要ないらしい。
「模擬戦でもするの?」
エミリーがルディにこの後のことについて聞く。
「ええ。イシュバーン君がここで訓練するのは今日が初めてですからね。少しルディ君に協力してもらっているんですよ。」
ディーンがルディの代わりに答える。
「そういうことさ。エミリー、見ていてくれよ!俺は負けないぜ?」
ルディにしては珍しく、自信たっぷりに答える。
「はいはい。見ていてあげるわよ。」
今度はエミリーがため息まじりに言う。
「いいのか?ルディ、そんなことを言って。」
俺はそう言ってニヤリと笑う。
「俺だって、剣の訓練をやってきたんだ。イシュバーンなんかに負けないぜ。」
そう言うと、ルディは剣を構える。
―油断がないな
剣についてはあまり詳しくないが、ルディはどうやら本気らしい。
「ポーションは準備してありますからね。イシュバーン君、ルディ君は手ごわいですよ。存分に力を発揮してください。それでは・・・始め!」
ディーンの合図とともに、俺とルディとの模擬戦が始まった。




