14話
翌日、俺はルディと共に訓練場へ訪れることにした。
広い建物の中に、男女を問わず剣の訓練を行っているようだった。
「やあ、ルディ。調子はどうだい? ―おや? そちらは、お友達かい?」
長身の優男といった感じの者が声をかけてきた。
「ディーン先生!今日はイシュバーンを連れてきました。」
ルディは返事をする。
「イシュバーン?」
ディーンと呼ばれた男は小首をかしげる。
「あの、ヘイム家の・・・。」
ルディは少し言いにくそうにする。
「今はただのイシュバーンだ。よろしく頼む。」
俺はディーンと呼ばれたその男に挨拶をすることにする。
「ヘイム家の・・・。ああ!君がイシュト君の兄上の!」
すると、ディーンからイシュトの名前がでてきた。
「イシュトを知っているのか?」
どうやら弟は有名人らしい。
「もちろんさ。ヘイム家にはアーリンが教えに行っているはずだよ。彼女は後輩なのだけれど、早々と出世していって、今では騎士団の師団長さ。」
どうやら、階級的には、アーリンという昨日の女性騎士の方が、ディーンと呼ばれる男よりも上のようだった。
「ここの仕事は騎士団の仕事ではないのか?」
「そうだね。これは騎士団の仕事でもあるが、私の趣味でもあるんだ。アーリンを見出したのも、私なのだよ?」
ディーンは少し誇らしげに言う。
「なるほどな。つまりは、この訓練場は、趣味と実益を兼ねたものということか。」
「ご名答。」
ディーンは軽く答える。
「イシュバーン、どういうことなんだ?」
ルディが俺に訊ねてくる。
「つまりは、この訓練場は、このディーンという男の趣味であると共に、将来の騎士団の有望株を見つける場でもあるということらしいぜ。」
俺はルディに答える。
「騎士団の有望株を・・・!」
ルディは少し目を輝かせてそう言う。
「なんだ、ルディ。剣の方に興味があるのか?この前までゴーレムを作りたいと言っていたのに。」
俺はルディには剣の方の才能があることは知っているが、あえて問うことにした。
「そうだな・・・。ゴーレムも捨てがたいな、うん。」
ルディはそんな風に言った。
「失礼だが、ヘイム家のイシュト君の兄上の実力は・・・。」
ディーンが言いにくそうに、そんなことを言う。
――大体、何を言いたいのかは分かるが
「そうだな。であるからこそ、ここに来たと言ってもいいだろう。」
俺は特に否定もせずに、ディーンの質問に答える。
「そうだね。この訓練場はどんな実力の者も歓迎するよ!」
すると、軽やかにディーンは言う。
「それで、月謝の方だけれど・・・。」
「それはルディから聞いている。月に銀貨五枚だろう?」
「そうだね。貴族の方にはある程度の負担をお願いしているんだ。」
ディーンに聞くと、ここに通う者の中には平民もいるらしい。そして、彼らは銅貨を支払うことで安価に訓練に参加することができる。貴族は、建前上は必ずしも剣を習得する必要はないので、負担を大きくしている。いわゆるノブレス・オブ・ルージュみたいなものだろう。
もっとも、貴族で剣を扱えないことは恥になるので、剣を習おうとする貴族は大勢いるらしいが。
―なるほどな。魔法王国エルドリアでは、魔法学院で魔法を学び、私塾で剣を学ぶのか
ちなみに、エルドリア以外の国では、普通に騎士を育成する学校が普通に存在するし、俺が知らないだけでエルドリアでもそういった騎士学校は存在するのかもしれない。
とはいえ、魔法王国というぐらいであるので、とりわけ貴族は魔法を習得するのが最優先とされる。そして、そんな性質を持つ国であるとしても、その軍事力は世界有数であるという話だった。
「君たち、貴族からのお金は騎士団そのものの発展のために使用される。いわば、君たちは騎士団のパトロンということなのさ。」




