12話
そんな会話があって、ホームルームの後のこと。
「―ちょっと、イシュバーン。いい?」
俺に声をかけてきたのはラズリーである。腕組をしながらクラスルームの扉の所で俺を待っているようだ。
「ラズリーか。どうした?」
俺は彼女の待つ場所まで行くことにする。
「・・・ちょっと、こっちへ来なさいよ。」
そう言うと、俺の手を引っ張っていく。
「お、おい、そんな引っ張るなって、」
だが、そのまま俺はラズリーに引っ張られながらついていくことにした。
果たして、向かった先はいつもの屋上だった。ただし、今はいつもと違い、近くにルディがいない。
「―随分と急じゃあないか。何か急ぎの用か?」
俺はラズリーに何かあったのではないのかと確認する。
最近は特に護衛らしい護衛の仕事があるわけではないが、定期的に魔眼で周囲の様子を調べることはしている。
―だが、特に異常はなかったはずだが
「ほら、これ。この前の報酬よ。・・・ありがとね。」
そう言うと、金貨を一枚、こちらへ手渡してくる。
「特に何かしたわけではないが、いいのか?」
俺はラズリーを見る。
すると、ラズリーは目をふいっと逸らし、
「い、いいのよ。これはあの時のお礼も兼ねているんだから!それだけ!」
そう言うと、パタパタと屋上から去って行った。
確かに、あの時のお礼を兼ねているのであれば、正当な報酬と言うことができるだろう。
「・・・これで訓練場に行く金ができたな。ありがたいことだ。」
基本的に護衛の依頼といっても、いつも一緒にいることはしないし、送り迎えもラズリーの護衛の使用人がするので、それらも俺の仕事ではない。護衛とは、前回のように特別な用事があるときに直接ラズリーから依頼されるものであると俺自身は認識している。
「何かあれば、またラズリーから声をかけてくるだろう。」
ちなみに、仮に報酬が発生しなかったとしても、しばらくの間は魔眼を使用するなどしてラズリーの周囲に異常がないか調査するつもりでいた。しかし、こうして報酬が支払われた以上、もう少し入念に周囲を確認する方がよいかもしれない。
クラスルームに戻ると、大半の学院生は帰宅しているようだった。
―俺も帰るか。
そのまま俺も離れにまで戻ることにした。
帰ってから、今後のスケジュールについて考えてみることにする。
まず、訓練場の費用は月謝性のようであり、月に銀貨五枚。しかし、
「そういえば、訓練の頻度や時間について何も知らないな・・・。」
今度ルディに聞いてみるとしよう。
「今日は久しぶりに剣の訓練にするか?」
こうやって剣を触るのは久しぶりだ。
――ブンッ、ブンッ
俺は剣の素振りを行ってみる。
だが、素振りだけしていても、上達しているのかどうかはっきりしない。
セバスに頼むという手もあるが、俺とセバスでは剣の腕前に差がありすぎるのも事実だ。
「―やはり訓練場に通うべきなのだろうな。」
さすがに素振りもできぬほどの初心者というわけではない。剣の基本中の基本はセバスから教わってはいる。
「とりあえず、セバスに報告しておくとしよう。」
俺は別邸に向かうことにした。
「―はっ!それ!!」
別邸に向かうと、中庭の方から何やら威勢のいい声が聞こえてくる。
「イシュト様、上達しましたね。それでこそヘイム家の跡取りというもの。」
そう言ったのは見慣れない女性である。
―初めて見る顔だな
おそらくその女性がイシュトの剣の師なのだろう。
興味本位で中庭まで来てみると、イシュトが女性を相手に、剣の訓練を行っている最中だった。
―イシュトめ、剣に関してはかなり鍛えてきているな
俺の振るう剣よりも明らかに鋭く、そして滑らかであることが分かる。
イシュトもルディの婚約者であるエミリーと共に、合同探索に加わるのである。これは原作通りの展開だ。きっとそれに合わせて、親父もイシュトも別邸にまで戻ってきているのだろう。




