11話
「なあ、ルディ。剣の方は進んでいるのか?」
そう言って俺はホットサンドを一口かじる。
俺たちは昼休み、相変わらず屋上にいる。一時に比べて近頃は涼しくなってきたようだ。
「訓練場に通うことにしたんだ。少しはましになったつもりだぜ?」
そう言うと、ルディは剣を振る動作をする。
「お前の婚約者には勝てそうなのか?」
婚約者とは、ルディの婚約者、エミリーのことである。
「それはまだまだだろうなあ・・・。」
ルディはため息をつきながら言う。
「エミリーと同じ訓練場なんだろう?」
確か、訓練場にはエミリーも通っているはずだ。
「・・・ああ。でも俺から見ても彼女は強いよ。」
そう言ってルディはサンドイッチを一口かじる。
「そろそろ剣の実技も始まるけど、イシュバーンは大丈夫なのか?」
「もちろんだ。―と言いたいところだが・・・」
雷切や鍛錬の方に集中していたので、剣の方はおざなりになっていたというのが実際のところだ。
「―まあ、俺もおそらくはルディと似たり寄ったりだろうな。」
そう言って俺はホットサンドを一口かじる。
「今思えば、よくハーヴェルなんかに喧嘩を売ることができたよなあ・・・。」
しみじみといった感じでルディは言う。
魔法学園アルトリウスの中で最早ハーヴェルを知らない者はいないだろう。それくらいの実力を持っていることは明らかである。
それ故に、ハーヴェルが魔法学院対抗戦で敗北を喫したことは学園でかなりの衝撃として受け止められたのである。
「ハーヴェルも万能ではない。この前の魔法学院対抗戦でそれは明らかになっただろう?」
「それはそうだだけど・・・。」
ルディはサンドイッチを手に持ったまま言う。
『魔法王国エルドリア』では正直、ハーヴェルを超える者はいないといっても過言ではない。だが、ここではどうだろうか?ハーヴェルを超える実力の者が現れており、もしかすると、これからそういった連中が増えてくるかもしれない。
俺は人知れず拳を握りしめる。
―そうとなれば鍛錬を
と、そこまで考えたところで、剣の訓練もしなくてはならないことを思い出す。
「・・・せめて剣ぐらいは何とかせねば格好にならんな。」
俺は独り言をつぶやく。
「あのイシュバーンが、珍しい・・・。」
それを聞いたルディがそんなことを言う。
「おい、ルディ。それはどういうことだ?」
「いや、珍しいこともあるもんだと思ったのさ。」
ルディはそれから一口、サンドイッチをかじる。
「―たわけ。俺もたまには努力をすることもある。」
「・・・そう言ってやっぱり口だけじゃないのか?」
――これはルディのやつに俺の実力を知らしめる必要があるだろう
「決めたぞ、ルディ。俺も剣の訓練場とやらに行こう。」
たまには、他の連中と訓練することで、剣の上達につながるかもしれないしな。
「ええ!どういう風の吹き回しなんだ!?」
ルディが驚いたように言った。
「ちなみに、その訓練場は金がかかるのか?」
気になるのはその費用である。
「・・・そりゃあね。大体、月に銀貨五枚程度だよ。」
呆れたようにルディは言う。
「銀貨五枚か・・・。」
ポーション代がかさんでしまっているため、今の俺にとって銀貨五枚はそれなりの大金である。
「どうするかな・・・。」
「イシュバーンを見てると、貴族とは何なのかということを考えさせられるよ・・・。」
そう言ってルディはサンドイッチを食べ終える。
「おい、ルディ。どういう意味だ、それは。」
俺もホットサンドを食べ終えたのだった。




