10話
しばらく川の周辺をうろついてみたが、ダンジョンの中に川が流れているということ以外には特に変わった様子はない。
俺は転がっている石ころを川の中に投げ込んでみる。
チャポンッ
音を立てただけで、やはり特に変わった様子はない。
「・・・先に進むか。」
ここを先に進むためには、川を渡らなければならないかもしれない。見たところ、それほど川の深さがあるとは思えない。川幅の狭い場所を思い切って渡ってしまうのがいいかもしれない。
どこか対岸に渡れそうな場所を探してみる。すると、川の流れを少し遡ったところにちょっとした滝があり、その辺りが渡るのによさそうだった。
だが・・・
何となくその滝つぼが不気味に感じられた。
「こういうときは―」
俺は魔眼を使用してみることにする。魔物であれば検知することができるはずだ。
「・・・何だありゃあ?」
俺が魔眼を通じて見たのは、滝つぼに巨大な蛙が隠れているというもの。いや、正確には蛙ではないだろう。あれは何か蛙の形をした魔物のはずだ。ちょうど、滝つぼの中の泡に上手く隠れるようにして、あんぐり開けて待ち構えている。
―しかし、その存在が分かっていればいくらでも対処可能
「―雷切」
俺は時間をかけて、かなりの魔力を込めてロングソードほどのサイズの雷切を作りだす。
とはいえ、滝つぼの中にいるので、ここからでは狙いにくい。確実に仕留めるためには滝の上から滝つぼに向かって投擲する必要があるか。
雷切の便利なところは一旦形作ってしまえば自由に持ち運びできる点にもある。
俺が水の中に足を踏み入れ、ざぶざぶと音を立ててその巨大な蛙の真上に来た、ちょうどその時。
その巨体が下で蠢くのが見えた。
―そして
ザッアアアア――――――ン!!!!!!!
大きな口を開けてこちら向かって飛び上がってきた!!!!!!
その大きな舌で絡めとろうとするが―
残念ながらこちらは既に準備ができている状態である。
―ふっ!!
その迫り来る舌を避け、
「雷切!!!」
俺はロングソードサイズの剣を思い切り投擲する!
―ズバンッ
その大きなどてっぱらに雷切を突き通す!
バリバリバリバリッッッ!!!!!!!!!
たまらずそれは元の滝つぼに戻るが、滝つぼに逃れたところでどうしようもない。数十秒ほど滝つぼが明るく輝いた後、その巨体が横になってぷっかりと浮かんできたのだった。
俺は対岸に渡ってから、浮かんできた蛙を観察することにする。
「―原作ではこんな魔物は出てこなかったな。」
肌の色はちょうど岩と同じ色をしていて、迷彩の役割を果たしている。今の襲ってくる方法を見る限りは、あの場所でただひたすらに獲物を待ち受け、通りかかったモノを食らう、そういったタイプの魔物であるのだろう。
原作で出てこない魔物については分からないことが多く、これも一体どのような魔物であるのかはっきりしない。そのため、このダンジョンはもちろん、今後他のダンジョンにアタックする際には、このような原作にない魔物の知識も少しずつ身に着けておく必要があるのだろう。
一通り魔物を観察し終えると、俺は先に進むことにする。
「・・・ここのフロアは広いな。」
魔物こそ出てこないが、先ほどの蛙を倒してから、既にそれなりの距離を歩いている。
これまでの一本道とは異なり、だだっ広いエリアであるので、どちらの方向に行けば次のフロアに行けるのかが今一つはっきりしない。
「・・・戻るか。」
あまり歩き続けて体力を消耗することは得策ではないだろう。俺は元来た道を引き返すことにした。
そして、先ほどの滝つぼに差し掛かったとき、俺はもう一度魔眼を使用してみることにする。
「―今度は何もいないな?」
他の魔物がいないことを確かめるが、
「・・・ん?」
魔眼を通して滝つぼを見たとき、よく見ると、滝つぼの裏から先へ続く道が伸びているのを見たのだった。
だが、今日これ以上探索を続けると、きっと日が暮れてしまう。
俺は今回はここで戻ることにしたのだった。




