9話
俺はこの日、ダンジョンへ再び来ていた。
「雷切!」
バチバチッと音がして数秒のうちに短剣が形作られる。
接近戦で使用するには、時間がかかりまだ不安が残るが、雷切は投擲による攻撃をメインにするつもりでいる。
離れた位置にいる巨大なカタツムリに向かって、雷切を投擲すると、殻を貫通して突き刺さり、しばらく放電し、やがてカタツムリはシュウシュウと音を立てて動かなくなった。
この雷切は迅雷に比べて魔力効率がよく、迅雷ほどではないにしろ、威力が高く、しかも貫通性能がある。
―そして何より
「雷切・・・!」
今度はある程度の長さをかけて雷切を発動させる。
すると、これまでの短剣より長めの、ロングソードよりは少し短い程度の剣が形作られる。予想はしていたことだが、魔力を込めれば込めるほど大きな武器を作ることができるようだ。
「はっっ!」
俺は別の場所にいる巨大なカタツムリ目掛けて雷切を投擲する!
―ズッ!!
すると、雷切はカタツムリの殻を貫通し、その肉に大きな穴をあけて、その後ろの壁に突き刺さり、壁を大きく焦がす。どうやら、武器を大きくすれば雷切の貫通性も向上するらしい。
――ジュッ
「あぶね!!」
後ろにも別のヤツがいたようだ。すんでの所で溶解液を回避する。
俺は雷切を急いで作る。
再び俺に向かって溶解液が射出されるが―
「おらよ!」
俺はその溶解液に向かって雷切を投擲する!
すると、バシュッと音を立てて溶解液を貫通し、その後ろの壁に雷切は突き刺さった。
そして、再び雷切を作り
―縮地
瞬時に巨大なカタツムリの近くに移動し、今度はその殻を剣で切るように雷切を振るう!
だが、やはり雷切は殻を貫通し、カタツムリの肉の部分に突き刺さり、それをしばらく感電させる。
「―やはり雷切で切ることはできないか。」
雷切という名を付けたものの、この雷切、物を上手く切ることができないのである。また、貫通性能があり、特に固体に対してはある程度の厚みがなければそれを素通りする性質があった。
例えば、剣を使う相手を想定した場合、剣程度の厚みではおそらくは容易に貫通してしまう。雷切を使えば、相手に対して予期せぬ攻撃手段になるかもしれないが、同時に、それは相手の剣などの攻撃を雷切を用いて防御することができないということでもある。
どうやらこの性質は、雷切をある程度鍛えても変わらないようだった。
ハーヴェルなどは、自分の武器そのものにエンチャントするので、あいつの魔法剣は攻撃防御一体と言うことができる。これに対して、俺の雷切は接近戦で使用する場合、かなりトリッキーな使い方を強いられることになる。
そういうこともあって、雷切は投擲用として使用するのが最も有効であると考えている。
今回は、ウルフどもは出てこなかった。
ただ蠢くだけのカタツムリとは異なり、あのウルフはかなり集団の統率がとれていそうな感じだった。以前コテンパンにしたこともあり、もしかするとどこかで息をひそめているのかもしれない。
―さあ、先に進もう
今俺は以前進んだ所まで来ていた。ここから先は俺の中では未踏破区域だ。そのため、どんな敵が出てくるのか分からない。慎重に歩を進める必要があるだろう。
奥に進んでいくと、その先は明るくなって―
「―何だこりゃあ?」
ザアアアア
―水の流れる音が聞こえる
ダンジョンは急に明るくなり、水が流れている。ダンジョンの中に川が出来ているのだ。
見たところ、川の水は澄み切っているが、むやみに口にするべきではないだろう。
「川の中に魔物がいたり・・・」
川の中を見るが、見た限りでは魔物の影はない。
―こりゃ一体どういう場所だ?
前回とは異なりウルフの襲撃もなく、かなり早いペースでここまで来ているので、まだ辺りを探索する時間が充分にある。
「もう少し調べてみるか。」
俺はこのフロアを探索することにした。




