8話
とりあえず人通りの多いような明るい場所へ歩いて行けば駅にたどり着くことができるだろう、そう考えて俺は繫華街の方へ歩いて行くことにする。
―金も手に入ったし、コンビニで何か飯か飲み物でも買って行こうか
そう考えて、コンビニの自動ドアをくぐったとき—―
俺はいつの間にか離れの中にいた。
「―は?」
どうやら、唐突に元の異世界の離れに戻って来たようだった。
「何なんだ、一体・・・」
―これはどのような現象なのだろうか?まさか白昼夢では?
そう思い、ポケットを探ってみると、夕日からバイト代としてもらった二万円が確かに存在した。
―これは白昼夢ではない
俺は確かに日本に行き、そこで夕日たちと出会い、そして再び魔法王国エルドリアの世界に戻って来たのだ。
だが、どのような原理で行ったり来たりすることができるのか不明である。確かなことは、俺の意思でこのような現象が生じているのではない、ということ。
前回は異世界の時間遡行であったが、今回はいわば空間移動である。何らかの条件で時空を移動できるようだが、その詳細が全く不明である。
「あの蛇なら何か知っているのだろうか?」
あのとき、何かこの現象の正体に心当たりがあるように見受けられた。
と、そのときジリリッとベルが鳴る。どうやら誰か来たらしい。
俺が扉を開けると、そこにはメイドが夕食のバスケットを持って立っていた。外もすっかり日が暮れている。
「イシュバーン様、こちらお夕食でございます。」
そう言うと、メイドはバスケットを手渡してくる。
「ああ、すまないな。」
俺はバスケットを手に取る。ちょうど腹が減っていた頃合いだった。
「それでは、私はこれで失礼致します。」
メイドはそう言って丁寧にお辞儀をして、別邸の方へ戻って行った。
俺はバスケットを手に取って何か違和感を覚える。それはバスケットにではない。
―なんだこれは、何の違和感か?
俺はバスケットを持った状態で、食卓には行かず、玄関で立ち止まって考える。
「まさか・・・!」
俺はもう一度ポケットの中に手を突っ込む。そこにはやはり夕日から受け取ったバイト代がある。
―これはこの世界のものではない
日本円にして二万円の一万円札二枚は日本の紙幣であり、決してこの世界のものではない。にも拘らず、今俺の手にあるのだ。
それはすなわち―
「あの妙な事象が起きた場合、その先で手にしたアイテムを持ち帰ることができる?」
あるいはその逆に、こちらの世界のものを日本の方へ持っていくこともできるだろう。現に、俺は異世界で購入したこの上下の服を日本でも着ていたのである。
だからどうしたという話であるが、もしかするとこの知識は、今後何かの役に立つときが来るかもしれない。
また、もしかすると何らかの条件があるのかもしれないが、世界が違っても変わらず魔力を行使することができるようだった。その証拠に魔眼を実際に日本で使うことができたのだ。
今回俺はたまたま日本に行き、夕日に出会ったが、それは果たして偶然なのだろうか?そこには、何か必然性がありはしないのだろうか?
俺はふと、離れの館内にある様々な調度品を見る。それらは夕日の店で見たアンティークにとてもよく似ている。
俺は念のため、魔眼を発動させてみる。
「・・・」
この館の調度品には魔力が込められているものはなかった。
―つまり
夕日の扱うアンティークの中に異世界由来の品物が存在していたとしても何らおかしくない。いやもしくは逆に、これらの調度品がそもそも日本のような、地球に由来する物品である可能性もあるのだ。
そう考えると、にわかに見慣れた館内の様々な調度品が特別な物のように思われた。
「一体、これらはどこからやって来たのだろうな?」
おそらくこれらの調度品は俺の爺さんが集めた物品である。今度セバスにでも聞いてみようか。
俺はそこまで考えると、食堂へ向かうことにするのだった。




