7話
鳥居をくぐった後ろにその神社は存在した。第一印象はカラフルだということ。朱色の神社は実に存在感がある。
俺の行ったことのある神社は大体が目立たない色をしていたが、ここの神社は違う。祀られている者の好みが反映されているのかもしれない。
―こんな場所があったとは
魔眼を発動してみるが、特に何も感じない。にも拘らず、どことなく威圧感を感じる。祀られている鎧の持ち主はさぞ名のある武将なのだろう。
残暑の中、境内は若干涼しく、感覚が研ぎ澄まされるような気がした。
「ここにはどんな鎧が祀られているんだ?」
俺は夕日に訊ねてみる。
「そうねえ、私もあまり詳しくはないけれど、戦国時代に大活躍した人の鎧らしいわよ?」
―戦国時代に大活躍した名のある武将か
それで誰の鎧であるのか見当をつけることができたかもしれない。
「・・・知りたい?」
何か含みのあるような形で夕日は言う。
「いや、大体見当がついたかもしれない。ネタバレはよしておこうじゃあないか。」
そう言って俺はニヤリと笑う。
「そうね、その方がいいかも?」
そう言って夕日は微笑んだ。
その後、せっかくだからと俺たちは神社に簡単にお参りをすることにする。
・・・
夕日と二人で、二礼二拍手一礼をして帰ろうとしたとき
――その願いを叶える手助けをしてやろうではないか
―???
特に願い事をしたわけではないが、何かの空耳だろうか?
「―どうしたの?」
夕日が不思議そうな顔をして俺に訊ねる。
「―いや、何でもない。」
神社を振り返るが、俺たちの他には誰もいなかった。
「―おせえじゃねえか?」
目的地に到着すると、サトルの親父さんが少し不満げに言う。
「ごめんなさいね、ちょっと明君を神社まで案内していたの。」
「ああ、あの。坊主、どうだ、あの場所は?何か感じなかったか?」
サトルの親父さんが俺に聞いてくる。確かに雰囲気のある場所だったがそれ以外に何かあるのだろうか?
「―ああ。厳かな雰囲気の神社だった。」
それに対して俺は神社で感じたことを端的に答える。
「はっはっは。違いねえ。何せあの場所に祀られているのは―」
「オヤジ、早くしようぜ、日が暮れちまう。」
サトルが注意する。
「っと。それもそうだな。それじゃ、ちゃっちゃとやってしまおう。」
そう言うと、サトルの親父さんは荷台を紐解き始める。
「夕日さん、中に荷物を運ぶだけでいいんだよな?」
俺は作業内容について確認する。
「ええ。荷解きは後で私が行う予定よ。」
俺はそれを聞いて、始めと同じように段ボールを二つずつ、空き店舗の中に運び込む。
作業としては、単純に運搬作業だけでよいので今回は随分と早く完了させることができた。
「明君、ご苦労様。はい、これ。今日の分のお給料ね?」
運び終えると、夕日が労いの声をかけてくる。
「ああ。作業は以上でよいのか?」
俺は改めて残作業がないか確認する。
「ええ、今日はもう夕暮れも近いからね?」
夕日が答える。
外を見ると、辺りは太陽が傾き、もうすっかり夕焼け空だった。
「―なあ、お前さん、どこから来た?」
ふいにサトルの親父さんが俺に聞いてくる。
「・・・東京さ。」
俺は無難に答えることにする。
「孝さん、彼にもきっと事情があるのよ。」
夕日が注意をするように言う。
「確かにそうだな。だが帰る宛はあるのか?」
「さあな?風の吹く方にでも行ってみることにするさ。」
実際、これからどうすべきかは考えていない。せっかく日本に戻って来たのだから、もっと色んな場所を巡るのはどうだろうか?
「なんか適当だな。心配は無用ってか?」
今まで黙っていたサトルが声を出す。
「―その通りだ。だが、また会うこともあるかもしれない。そのときはよろしく頼むよ。」
そう言って俺はニヤリと笑う。
「夕日さん、世話になった。ありがとう。」
俺は夕日に声をかけ、その場を立ち去ることにした。とりあえず道を歩いて行けば、駅なりバス停なりに着くだろうと考えたからである。
「・・・変わった少年だな?」
親父が夕日さんにそんな風に言う。俺の印象も同じ。飄々としているが、隙がない、そんな風に感ぜられた。
「そうね。けど、結局どこから来たのか教えてくれなかったわね。」
そう言って、夕日さんは移転先の店の扉に鍵をかける。
「でも・・・」
夕日さんは続ける。
「―何となく、私たちの前にまたひょっこり姿を現す気もするわ?」
そう言って笑う夕日さんの表情は柔らかかった。




