15話
とはいえ、ルディの練習で何か俺が手伝えることはあるだろうか?
俺は、土属性はおろか、雷属性でもサンダーボルトしか使えない男だぞ?
「ルディ、何を手伝えばいいんだ?」
「ああ、土をこねた土人形を作って欲しいんだ。」
「げえ、子どものおままごとかよ。」
「そう言うなって。これが意外としんどい作業なんだ。」
確かに、土人形を作ってそれを魔法で動かすことが練習の第一歩と言われれば、そんな気がする。
ルディは、土に水をかけ、こねて、まず泥団子を作っていく。それを器用に人型に形作っていく。そして、土人形のおでこに何か文字のようなものを刻んだ。
「大いなる大地の神ゴラディスよ。その名において命じる。其方は土、だがただの土ではない。息吹する、大いなる土。目覚めよ、ゴーレム。」
ルディがそう唱えると、土人形が少しばかり光り、凸凹だったその形は滑らかに変化していく。
そして土人形が、―わずかに動く。
ルディの顔は真剣そのものだ。
よく考えてみれば、ゴーレムを動かすということは、ゴーレムに絶えず魔力を供給する必要がある気がする。
「―はあ!」
ルディがそう言うと、ゴーレムは足を一歩踏み出したところで、元の土の塊に変化した。
「凄いじゃないか、ルディ。」
思ったことをそのままルディに伝える。
「ふう。ああ、やっとここまで動かすことができるようになったんだ。」
「いつも一人で練習していたのか?」
「いや、魔法演習の時間くらいだな。なんせ、このゴーレム作成の魔法は燃費が悪いんだ。」
確かに、ゴーレムを歩かせるだけで集中力やら魔力やらを消費していそうな雰囲気ではあった。
「ゴーレム作成が簡単にできたら、エミリーもお前を捨てたりしないさ。」
「イシュバーン、おまえってやつは・・・!」
涙ぐむルディ。
「はいはい。ルディよ、次作らなくていいのか?ほれ、ここに俺が作ったのがあるぞ。」
「――相変わらずドライだな、イシュバーン。そういや、お前のほうは、アイリスはいいのか?二人の間には隙間風なんてもんじゃない、そうだな、暴風くらい吹いている勢いだが。」
ふむ。変な表現だが、ある意味正しい。
「まあ元よりアイリスと俺とでは釣り合わんだろう。」
―もちろん、アイリスが俺には高嶺の花という意味で。
「そりゃお前、どっちの意味だ?」
「さあな。」
俺はニヤリと笑うのだった。
家に戻ると、家の前に馬車が停まっていた。
あれは、うちの親父の馬車だ。馬車には弟も乗っている。
「なんだ、親父殿、もう帰るのか。」
「・・・イシュバーン。俺は仮にも侯爵だぞ。この国の。ああ、どうしてこんな変な男が我が家の長男なんだ・・・!」
「親父殿、嘆くのはまだ早いと思うぞ?」
「ええい!イシュバーン!ハーヴェルとやらに負けたらお前は離れで一人で住むがよい!この邸宅も、使用人も、お前には過ぎたものだ!」
―そんな展開があったのか!
これは願ってもいない。チャンスだ。
「分かったよ。親父。」
即答した。
「・・・悲しまんのか?」
「なんで?」
「・・・おまえという人間がよく分からんよ。私は。」
俺は悲しむことはない。
―もっともっと、俺は強くならなければならないのだから。
自室で、俺は森へ行く準備を行う。
森へ行くときは必ず短剣を準備する。
もしボアがいればサンダーボルトで仕留め、そのまますぐに解体することができるようにするためだ。
また、ボア肉を入れるためのずた袋と、マナポーションと、念のための回復用ポーションの入った袋を持っていく。
俺は自室を出て、使用人の部屋に行く。向かう先は、うちの使用人筆頭、執事のセバスの部屋である。
「セバス、今日も森へ行く。」
ノックをし、執事室に入る。
執事の仕事は多岐に渡る。他の使用人の取りまとめから、時には親父の代理まで。
単なる使用人と違って、セバスはある意味、うちの日々の業務の要とも言えるかもしれない。
「お疲れ様です。坊ちゃん。夕飯はどうなさいますか?」
「そうだな、親父と弟も帰ったことだし、ボアの肉がとれたら、皆でステーキにでもしよう。」
「おお・・・!使用人一同、楽しみにしておりますぞ!」
「ああ、任せておけ。」
俺はそう言うと、ニヤリと笑うのだった。




