2話
「―いや、特に用事はない。単に品物を見ているだけだ。」
俺はその女性に答える。
「そう?ゆっくりしていってね。」
そう言うと、その女性はカウンターのところにある椅子に腰かけた。
「・・・これらの品物はどこから取り寄せているんだ?」
やはり海外だろうか?
「そうねえ・・・。ヨーロッパとか、アメリカとか、様々な国よ?」
口に人差し指を当てながらその女性は答える。
―やはり異世界から物品を取り寄せるといったことはありえないか
「この辺りでバイトを募集していたりする所はないか?」
せめて日銭だけでも稼ぐ必要があるだろう。
「・・・それなら、ここでバイトしてみる?」
その女性はそんな有り難い提案をしてくれた。
「ああ、俺にできることなら。」
俺は即答で快諾することにする。
「あなた、お名前は?」
―名前、名前か
「・・・俺は佐藤明という。よろしく頼む。」
俺は咄嗟にこちらの世界で、よく見かけるような名前を言った。確か、この世界で最も多い苗字は佐藤であり、アキラはこの世界を代表するアニメーションの名前だった。
「明君かあ。私は夕日。よろしくね。」
そう言うと、その女性はニッコリと微笑んだ。
「それじゃあ、仕事の説明をするわね。実はこの店は近日中に移転予定なの。こちらで展示している商品以外にもバックヤードに商品があるわ。それらをまずは緩衝材に入れて段ボールに詰めて欲しいのよ。」
「緩衝材はこのプチプチのことでよいか?」
俺は段ボール横にあったシート状のプチプチを示す。
「そうそう、それで品物を包んで、ここに山積みになっている段ボールに詰めていってね。」
店のバックヤードには雑多に商品や段ボールが積まれている。俺の仕事はどうやら梱包作業のようだった。
「——分かった。それではさっそく取り掛かろう。」
「助かるわ、それじゃ、お願いね。」
そう言うと、女性は店の表に向かう。店番をするのだろう。
「さて・・と。」
バックヤードを見る。それなりの量の品物があるようだが、多すぎるというわけではない。半日程度あれば何とかなるだろう。
まずは折りたたまれている段ボールを広げ、ガムテープで箱の形を作る。そこに品物をプチプチで丁寧に包み、セロハンテープでとめていく。そうしてプチプチで包まれた商品を段ボール箱に入れていく。
商品はアンティークショップということだけあって、古びた品物が多いがおそらくどれも高価なものなのだろう。小さいものでは時計や小物、あるいはそれらの小物入れなど。大きなものになると、燭台や置時計、テーブルに椅子などがあるようだ。
段ボールに梱包して入れていくのは小さい商品である。奥にある大きい商品は後日別の手段で運送するのだろう。
―そういえば、離れの調度品にも、アンティークといえるような物もあるよな?
もちろん、それらの調度品の年代は分からないが、中には相当古いものもあるだろう。こちらで販売すると物凄い値段になりそうな物もある気がする。
そうしてしばらく作業をしていると。
「どう、進んでる?」
夕日がバックヤードの入り口付近から声をかけてきた。
「ああ。これくらいの量なら今日中にできそうだ。」
振り返り、答える。
「そろそろお昼も過ぎるころだけど、お昼ご飯食べる?」
「いいのか?」
正直助かる。実のところ、かなり腹が減っていたところだ。
「少し待っていてね。今作るから。その間、お店見ていてくれる?」
「分かった。だが、会計の時はどうすればいい?」
「私、上にいるから、ちょっと面倒だけど声をかけてくれる?」
そう言うと、夕日はバックヤード横の階段を上に登って行った。キッチンは二階にあるのだろう。
俺はその後、店の表に行き、カウンター近くにある椅子に腰をかける。
ここからは店に展示されてある商品がよく見える。やはり店の奥にあった商品よりも展示されている商品の方がキラキラしていて、見栄えが良い。
だが、いかにもアンティークといった感じの商品はむしろ店の奥に多いのではないか、そんな風に思うのだった。




