18話
「ところで、今日は買い物はしていかないのかい?」
「そうだな、せっかくなので何か買って行こうか。」
店で何かを買う用事は無かったが、せっかくなので何か商品を買うことにする。
店を見ていると、リストバンドが目に入った。
―何でこんなものがあるのか?
鍛錬をするときに、いつでも簡単に汗を拭くことができるというのは助かるかもしれない。
「―婆や、こいつはいくらだ?」
俺はリストバンドの値段を訊ねることにする。
「そうだねえ。銀貨一枚でどうだい?」
だが、さすがにリストバンド程度に銀貨一枚は高い気がする。
「こいつに銀貨一枚はさすがに高すぎる気がするぜ。大銅貨五枚でどうだ?」
そこで、俺は珍しく商品の価格を値切ることにした。
「・・・珍しいこともあるもんだね。それじゃあ大銅貨五枚でいいよぅ。」
特に何の問題もなく値切ることに成功してしまった。
「いいのかい、婆さん。」
念のため婆やに確認することにする。
「イシュバーンはお得意様だからね。また今度いいものを取り揃えておくよ・・・。ヒッヒッヒ・・・。」
「ああ、そうする、ありがとよ。それじゃあまた来るよ。」
俺は婆やに礼を言い、店から出る。
―リストバンドか
明らかに不自然な商品だが、鍛錬するときなどにあれば便利だろう。試しに着けてみるが、サイズ的にぴったりだ。
「―本当に考えれば考えるほど不思議な店だ。」
本当は、何故店が消えて再びそれが出現したのかということ、あるいはこれらの商品の仕入れ元はどこか、あるいは俺以外の客は来ることがあるのか、など聞きたいことはたくさんあった。
だが、それを聞いてしまったがために、今度こそあの金物屋がどこかへ行ってしまっては非常に困る。もしかすると全く関係ないかもしれないが、わざわざあの時店をどこかへやったのは、ルディやレティにこの店の存在が知られたくなかったのではないだろうか?
あくまでも俺はあの店にとっては一人の客にすぎない。そのため、俺はそういったことをあえて聞くことなく、黙っておくことにした。
離れに帰って来た俺は、さっそくいつもの上下に着替えてサンドバッグに打ち込みを行うことにする。
―ズンッ!
俺がサンドバッグに対して正拳突きを放つとサンドバッグが大きく軋む。大体力の入れ具合は、七割から八割ほどである。
最近は剣の訓練も行っているので、あまり鍛錬を行う時間が取れていない。しかし、それでもこれくらいの力で殴ってサンドバッグを大きく軋ませることができる。
「以前とは大きな違いだ。」
例え短い時間だったとしても毎日鍛錬を行っている上に、おそらくは俺のレベルも上昇していることが原因だろう。
そして、目を閉じると、闘気の流れを感じることができる。手と腕に集中するように意識することで、なんとなく闘気が手と腕に集中するような気がする。
―ズンッッ!
先ほどと同じような力でサンドバッグに正拳突きを放つと、先ほどと比べて若干サンドバッグがより大きく揺れた気がした。
―闘気も少しずつだが、上達していると思うが
いかんせん、魔力と違って闘気は目に見えにくい性質のため、この鍛錬で本当に上達できるのかどうかが怪しい。
しかし、闘気については、他に使うことができる者がラズリーの所で見たあの執事くらいしか思いつかない。いくらラズリーの護衛だからといって、公爵家の執事に教えを乞うことは難しいだろう。
もっとも、その目標ははっきりしている。
―あの岩を拳で砕くことだ
にわかには信じがたいが、あの蛇は闘気を使えば、あの岩を砕くことができると言った。本当にできるかどうかは分からないが、そうすることを俺の一つの目標とすべきだろう。
闘気については一長一短で伸びたりするわけではない気がする。それこそ毎日の鍛錬を通じて少しずつ鍛えていくことが重要なのだろう。
特に根拠があるわけではないが、何となくそんな風に感じるのだった。




