16話
「―そういや、二人に案内したい店があるんだよ。レティ、この後時間はあるか?」
今、俺たちはルディの剣を購入した武器屋から、ちょうど出たところだ。
「なになに?どこに連れていってくれるの?」
レティが楽しそうに言う。
「俺にとっちゃあ、とっておきの店さ。」
そう、俺が案内しようとしているのはあの金物屋である。
「どうせロクでもない店なんじゃねえの?」
ルディがそんなことを言う。
「ロクでもない店とは失礼な。普通この辺りで扱っていない珍品ばかり置いてある店だぜ?」
俺はニヤリと笑う。
「どうせロクでもない店だよ・・・。」
ルディがレティにこっそりと言って、レティが苦笑いを浮かべる。
―ある意味では、ロクでもない店というのも分からないでもない
あの店は雑多な物が所狭しと積み上げられていて、普通この辺りの店にはないような雰囲気を醸し出している。
扱っている品物もこの辺りでは置いていないような商品だ。しかし、俺にとっては非常に便利な商品が多く、欠かすことのできない店である。そして、その質も確かなものときている。
―確かに変な店だが、二人ともあの店を気に入るに違いない
そうやって三人でとりとめのない話をしていると、その場所にたどり着いた、が・・・
「あれ!? 店がない!そんなはずは・・・!!」
俺はつい叫んでしまった。場所を間違えてしまったのだろうか?
商業区のちょうど外れにある区画。どちらかと言えば人目につきにくい場所だが、間違いないはずだ。俺がいつも行っていたのはここなのだ。
「何にもないじゃないか、イシュバーン。」
ルディが口を尖らせる。
「いや、ルディ。そんなはずはないんだ!確かにここにあったんだ!!」
俺はあの店の常連客といってもいい。そんな俺が店の場所を間違うはずはない。
「どこかに移転したとかかなあ?」
レティが俺が店があったと主張する場所を見つめながら不思議そうに言う。
「あの婆さんがここから店を動かすことはないと思うが・・・。」
だが、可能性としては否定できない。
「どんなお店だったの?」
レティが訊ねてくる。
「妙な婆さんが店主の金物屋さ。日用品が雑多に積み上げられているが、その商品の品質は確かなものなんだ。俺にとっちゃ必要不可欠といっても過言ではない店なんだが・・・。」
あの店がなくては俺の日頃の鍛錬に支障が出る。運動靴やグローブにサンドバッグ、そしていつもの上下。もっといえば、やかんに急須や湯飲み、いつも使用しているたらいに石鹸など。俺があの店で購入した品物は数知れない。鍛錬に支障が出るとかいうレベルの話ではない。俺の日常生活に関わってくる。
「なあ、イシュバーン。俺、この辺りを通ることがあるけど、こんな場所に店なんて見たことないぜ?」
「ボクもこの辺りは何度か通ることはあったけど、店があれば気が付くと思う。」
二人がそれぞれ同じようなことを言う。しかし、それはたまたま、この場所を意識せずに見はしなかっただけだろう。案外、人は意識から外れたものを見ることができないものだ。
俺はこの場所に金物屋が存在していたことは知っているし、そこで実際に品物を購入したこともある。であれば、やはり店はどこかに移転した可能性が高いのだろう。
―困ったことになった。移転したとしたらどこだ???
だが、俺にあの店の移転先として思い当たる場所はなかった。俺は途方に暮れてしまう。
「日用品が置いてある店なら、ボク、他にもいい店を知っているよ!」
レティが俺を元気付けるように言う。
「本当?それは行ってみたいな。」
ルディがレティの提案に賛成する。
その後、俺たちは道具屋やいくつかの雑貨屋を三人で回ってみたが、これといって俺が欲しいと思うような商品はそのどこにも置いてなかった。




