12話
問1 魔法陣を一つ描き、それを描くための手順を説明せよ。
―これはラズリーに魔法陣の手順を確認しておいて正解だったな。
魔法陣の試験は全部で大問二つ。そのうち一つは、実際に魔法陣を例示し、その手順を説明するというもので、もう一つは、何の魔法陣か分からないが、試験用紙に魔法陣が描かれており、これがどのような魔法陣であると考えられるか述べよ、というものだった。
俺はさっさとサンダーボルトの魔法陣を描き、その手順を説明することで問1を解答し、問2に移動する。
―こんな魔法陣は初めて見たぞ?
ある程度講義で習った魔法陣を確認しているが、この魔法陣を見たことはない。おそらく、何の魔法陣か分からなくても、各種魔法陣のパーツからその効果を推測せよというものなのだろう。
・・・
―何とか自分なりに解答することができた。
自分の説明が正解かどうかは分からないが、何も解答しないよりは全然良いだろう。
前の方の席にいるルディを見ると、ゴシゴシと消しゴムを使って解答を書き直そうとしていることが分かった。
「―やめ!」
試験官の強めの声が響く。ルディは、その声の後も少しばかり手を動かしていた。
―この試験後の光景はどこの世界でも共通なのだな
思えば、以前の世界でも試験終了の合図の後に、少しばかり手を動かしている連中をよく見かけたし、俺も何度かは経験があることだった。
解答後、試験官が順番に試験用紙を回収していく。これも俺の見慣れた光景だった。
「イシュバーン、今日の試験、どうだった?」
ルディが前の席からこちらにやって来て訊ねる。
「まあまあだな。何度かラズリーに魔法陣について教えてもらっていたのが良かった。」
「俺は結局、問1しか満足に解答することができなかったよ。」
ルディが残念そうに言う。
「それでも、魔法陣をちゃんと描ききったのは随分と進歩したじゃあないか?」
素直にそう思う。
「へへ、俺なりにだけどな?」
心なしかルディが嬉しそうだ。
「そうだ、イシュバーン!俺ちょうど街まで剣を見に行こうかと思っているんだ、付き合えよ!」
急にテンションが高くなるルディ。試験後は皆、開放感に包まれるのもどこの世界でも同じなのだろう。なお、街というのは、王都の商業区のことを意味する。
「剣か。いいぞ、ルディ。だがその前にちょっとラズリーに確認させてくれ。」
一応、護衛という名目があるので、確認が必要だろう。ラズリーが学院にいる間は、俺も学院に残ることにしていた。
試験はそれぞれのクラスが別の講義室で受けるので、俺は隣の講義室に向かうことにする。
「――いいわよ?」
セフィリアと一緒にいたラズリーがあっさりと言う。
「問題ないか。なら俺はルディと街まで行ってくるよ。」
俺はさっさと元いた講義室に戻ろうとする。
「―ちょっと待ちなさいよ。あなた、今日の試験はちゃんと出来たの?」
何故か俺の試験の出来具合を訊ねてくるラズリー。
「もちろんさ。ラズリーのおかげだ。」
俺は素直に礼を言うことにする。
「そ、そう。ならいいけど・・・。」
髪をくるくるいじりながらそんなことを言うラズリー。
「ねえ、あなた達そこまでお話する仲でしたっけ?」
そんな俺たちを不思議そうな様子で見るセフィリア。
「なんでもないの!じゃあね、イシュバーン!」
早口で言って、ラズリーはセフィリアの手を引きながら、講義室を出て行った。取り残された取り巻きたちがその後を追う。
―?
形だけだが、俺が護衛に付いているということをセフィリアには言っていないのだろうか?
別に俺としてはセフィリアにラズリーの護衛をしていることが知られたところで問題ないが、もしかするとラズリーの方に何か事情があるのかもしれない。
――護衛についているのが、あの「最弱の」イシュバーンだからかもな
よくよく考えてみれば、別にその理由を推測するまでもないことだった。




