9話
帰りもルディと同じ馬車だったが、結局ルディは疲れたのか、寝ているようだった。
昨日の夜、エティナが去ってから、一通り試験の範囲について改めてラズリーに確認することができたが、少しだけ勉強することができた。
だが、俺もルディも勉強など上の空だったことは言うまでもない。
「―どうしたものか。」
ルディが寝ている中、馬車の中で俺は独り言を言う。
できれば、すぐにでもダンジョンへと向かいたい。が、このあと直ぐ試験が控えているのに、そんなことをすればどうなるか分かりきったことだ。
少なくとも残りの休みの期間は、いつものルーティン以外は勉強に充てるべきだろう。
とすれば、どのタイミングでダンジョンに潜るべきか。
―できれば冬は避けたい
寒い中あの真っ暗なダンジョンに潜ることはできれば避けたい。とすれば、試験後、秋が始まるあたりから、少しずつダンジョンに潜るしかないだろう。
忘れがちだが、この世界は元々がゲームの世界であるので、元の世界と同様に、春夏秋冬と季節が巡る。長期休暇の後には試験が始まると同時に、秋が始まるのである。
そして秋の中頃には、下の学年の有望株も加えた俺たちの学年の合同ダンジョン探索のイベントがある。そのダンジョンは、俺が今一人で潜ろうとしているダンジョンとは別のダンジョンであり、大人数で探索ができるものだ。
ガタゴトと馬車が揺れる音がする中、ルディのいびきが聞こえてきた。
―まずは、学院が休みの日に少しずつダンジョンを進めるしかないか
どのみち一気にダンジョンを進もうとすると、肝心の探索がおざなりになってしまいかねない。それはできれば避けたいことだった。
ちなみに、ハーヴェルがプリムからプレゼントされる家宝は【憩いのブレスレット】というものだ。
―ひょっとして、あの金物屋に同じようなものはないだろうか?
だが、あの金物屋に置いてあるものは、何故か以前の世界で見覚えがあるようなものばかりで、魔法効果のついたものを見たことがなかった。
今後に備えて色々と準備しなければならないが、とりあえず、まずは目の前の試験を何とか乗り越える必要があるのだ。
そして、それは目の前でぐーすかいびきをかいている男も同様だった。
―ガタン
馬車が止まるのを感じた。
「・・・む?」
いつの間にか寝ていたようだ。何か異常事態だろうかと思ったが、馬車から外を覗けば、どうやら来るときにも宿泊したアドカリの町に到着したようだった。
「おい、起きろ。ルディ。」
ゆっさゆっさ。ルディを手で揺さぶる。
「んひぃ・・・」
ルディから変な声が聞こえてきた。きっと楽しい夢を見ているのだろう。
「おい、ルディ。んひぃじゃねえ!」
俺は今度はぺちぺち顔を叩くことにする。
―ぺちぺち
「おふぅ」
またしてもキモイ声がルディから聞こえてきた。
―こうなったら俺の最終奥義を繰り出すしかないか
俺はがそごそと荷物からティッシュを取り出し、先端を長く、鋭く尖らせる。
「―食らえ、奥義、鼻こちょこちょ」
それをぐいっとルディの鼻の穴の奥深くに突っ込む!そして俺は素早くルディから離れる!!
「はっっっっっくしょん!!!」
盛大なくしゃみをしてルディは起きた。
「・・あ?イシュバーン?」
どうやらルディは寝ぼけているらしい。鼻からは鼻水が出て、口からは涎が垂れていて、ルディの顔はそれは酷いことになっていた。
「へっっっくしょい!!」
ルディはもう一発くしゃみをする。
「うう、何か鼻がムズムズする。」
じゅるると鼻水を吸うルディ。
「どうやら着いたようだぞ?ほれ、ティッシュだ。」
俺はルディにティッシュを数枚まとめて渡す。
「おお、助かるぜ、イシュバーン。」
そうしてずびいっとひとしきり鼻をかむルディだった。




