4話
だが、ここで一つ問題がある。
それはどのようにしてエティナをレグルスの前まで連れていくのか、ということだ。
「ルディ、レグルスをここに呼んできてもらうことはできないか?」
おそらくまだ時間的にランクマッチの最中だろう。アルトリウスの試合は既に終わっているかもしれないが、他の学院の試合がこれから始まるくらいの時間だ。
「ええ!何で俺が!」
文句を言うルディ。
「しょうがないだろう?今この場で自由に動くことができるのは、ルディだけだ。」
俺はラズリーに付き添わなければならないし、ラズリーはきっとこの場を動こうとはしないだろう。ソフィアを含むラズリーの使用人はレグルスと直接的な面識がない。
「・・・分かったよ。まったく。」
ルディは気乗りしないようだが、しぶしぶ了承する。
「レグルスの場所は分かるか?おそらく運営に問い合わせをすれば分かるはずだ。」
俺はルディに確認する。
「はいはい。大会の運営に問い合わせをするよ。」
そう言って、ルディは部屋を出て行った。
ふとエティナの方を見ると、これから魔法学院アルトリウスの学院長が来るかもしれないというのに、全く焦った様子がない。
―どういうことだ?
こういった場合、少しは動揺したりするものではないだろうか?
思えば、ここはやつにとって言わば敵地も同然だ。だが、相変わらずまるで儚げな少女のような雰囲気を見せている。
「―イシュバーン様。本当に彼女に襲われたのですか?」
ソフィアまでそんなことを言う。
「ああ。事実だ。」
俺は短く言う。だが、ラズリーやソフィアは相変わらず困惑した様子だ。
ルディがレグルスを連れて帰ってくるまでの間、俺は思考を整理することにする。
やつは急に俺を襲ってきたことは確かだ。そして、あれはおそらくは召喚魔法だろう。召喚魔法は、召喚を行うために触媒となる物質を必要とすることがある。例えば、召喚のための魔物の素材や、人の爪、髪の毛、そういった物を必要とすることがある。
―その最も悲劇的な物が――
あの化物はあのとき、召喚者自身を襲った。だが、エティナ自身もそのことについて不意打ちを受けたような感じだった。
―であれば、あのときに限って術者の何かを対象にする必要があったということだろうか?
・・・やはり詳しくは本人に聞かない限り分からないな。
しばらくの間、俺たちの間に沈黙が流れ、
「・・・少し疲れましたわ。横になっても良いでしょうか?」
エティナが頼りなさげに言う。
「・・・」
俺はそれに答えようとはしない。
はあ、とため息を吐きながら、
「いいわよ。」
とラズリーが彼女に言った。
「ありがとう。少し横にならせて頂きます。」
するとエティナは本当に横になってしまった。
よく見ると、エティナの顔には疲労している様子が浮かんでいた。
「・・・」
俺は相変わらず押し黙っている。エティナの意図がよく分からない。
「―私も少し疲れたわ。」
そう言うと、ラズリーは椅子を引っ張ってそこに座り込んでしまう。
しばらくすると、エティナの寝息がすうすうと聞こえてきて、ラズリーは眠たそうにしている。
ラズリーの使用人たちは、ソフィアを含め、俺と同じように立ったまま後ろに控えている。
そのうちに、ラズリーがうとうとし始めるころに、
―ガチャ
ルディが戻って来た。
「ルディ、レグルスは?」
だが、レグルスの姿が見えない。どうしたというのだろうか?
「ああ。後で来るらしい。それと、イシュバーンに伝言があって、『今日はモノクルを持ってきてはいないが』、だそうだ。」
―なんてこった
魔道具を持たないレグルスをこの部屋に呼ぶ意味があるのだろうか?




