3話
しばらく少女が起きるのを皆で待っていたが、ふとトイレに行きたくなってきた。
「悪い、便所行ってくるわ。」
そういえば、あの後トイレに行けずに今に至るのだった。
「俺も付いて行こうか?」
どうやらルディは連れションをしたいらしい。
「おいおい、ルディ。何が悲しくて男二人で連れションしなきゃあいけないんだ?」
俺は丁重にルディの誘いを断る。
ラズリーの部屋は公爵令嬢のための部屋だけあってかなり豪華だが、お手洗いは女性用のものが一つしかない。そのため、俺は廊下にある共用のものを使うことにする。
―
イシュバーンが部屋から出て行ってしばらくして、その子は起きた。
「―気が付いたのね?」
私はその子に訊ねる。
「ここは・・・?」
まだぼやけているようだ。
「私の部屋よ。昨日も自己紹介したわよね、エティナ。」
彼女はエレノア侯爵家の娘である。エレノア家はバルモン家の懐刀と言われている。
「・・・ラズリー様。ご迷惑をおかけしました。」
エナは目を伏せる。
「―何があったか教えてもらえる?」
私はエナに改めて状況を確認することにした。
「ええ、お手洗いに行こうとしたら、急に立ち眩みがして・・・。それでイシュバーン様に助けてもらったのです。」
「――おいおい、そいつはあからさまな嘘だな。」
後ろを振り返ると、イシュバーンが怖い顔をして彼女を睨みつけていた。
―
さすがにトイレ行こうとしたら立ち眩みがしたというのはありえないだろう。
「立ち眩みをすればあんな化物が召喚されるのか?」
自分で言って気が付いた。まさかあれは召喚魔法か!
「イシュバーン様、滅相もありません。私をお救いになったのはあなたではありませんか!」
――無駄に容姿が良いだけに、同情を引くのが上手い
「ねえ、イシュバーン。貴方が彼女を助けたというのは本当なのよね?」
ラズリーが困惑しながらこちらに聞いてくる。
「結果的にそうなっただけだ。」
俺はラズリーに言う。
「・・・あれは召喚魔法だな?」
俺はエティナと呼ばれた少女に確認する。
「召喚魔法など、わたくしには使うことはできません・・・!」
上目遣いで俺に向かって言うエティナ。
「本当のことを言え!」
俺は少し大きな声で言ってしまった。
「――そこまでよ、イシュバーン。」
ラズリーがこちらを睨む。ラズリーからそんな目で見られたことは一度もなかった。
「イシュバーン、ちょっと落ち着け。」
ルディまでエティナに同情的だ。
―ああくそ。
今まで単純な自身の強さのみを追い求めてきたので、このような状況でどう動くべきかがはっきりしない。
―せめて相手の嘘を見抜くことができたなら
「待てよ?」
俺はふと思い出す。そのようなことができる男が一人いたではないか。
俺はニヤリと笑う。
「いいだろう。俺に考えがある。ラズリー、レグルスの前に連れていくというのはどうだ?」
そうだ。然るべき場所に連れていくべきなのだ。
「学院長に?」
ラズリーが困惑した様子でこちらに訊ねる。きっと彼女はまだこいつがそこまで危険な存在であるとは認識してはいないのだ。
ラズリーは他人にとても優しい性格だが、今はそれを、暴力を使用しない方法で打破する必要がある。
学院長は、言葉が真実かどうかを見抜くことができる妙な魔道具を持っているのは間違いない。きっとあのおかしげなモノクルがそれだ。
「・・・ねえ、イシュバーン。そこまでする必要があるのかしら?」
なおもラズリーは困惑した様子だ。
「ラズリー、君を守るためでもあるんだ。」
俺はラズリーの目をまっすぐ見る。
「あ・・・。」
顔を赤らめるラズリー。
―パンッ!!!
大きな手を叩く音が聞こえた。これはソフィアか!いいところで!!
はっとするラズリー。
「イシュバーン様。お嬢様をからかうのはやめてください。お嬢様、イシュバーン様のおっしゃることにも一理あると思います。」
「・・・そうね。あまり気が進まないけれど、そうしましょう。」
そうして、ラズリーをどうにか、エティナをレグルスの前に引っ張り出すことに同意させることができたのだった。




