1話
――何があった?
俺達の座っていた席を見れば、まだラズリーも一緒に観戦しており、誰もが信じられないといった表情をしていた。おそらく俺と同じくハーヴェルが負けるとは思っていなかったらしい。
俺は急ぎ階段を降りて、
「―何があった!?」
皆に聞く。
すると、ルディもラズリーもソフィアもこちらを見て、
「「「イシュバーン、何があったの!?」」」
―そういえば、自分の状況の方が不可解極まる状況だった。
「―ああ。何か知らんけどこんなことになった。」
説明するにしてもどう説明するべきか悩むし、試合の経過も気になる。
「――説明して。」
ラズリーがこちらを怖い目で見る。
「おい、起きろ。」
緑色の粘液にまみれ、いつの間にか気を失っていたらしい少女の顔をぺちぺちと叩いてみるが、一向に起きる気配がない。
―待てよ?ハーヴェルが試合に敗北すれば、次はラズリーの出番なのでは?
「おい、ラズリー。そんなことより、試合は?次の試合はお前だろう?」
だが、彼女はこちらの様子が気になって仕方がないようだ。
「こんな状況で試合どころじゃないわ。この子、エルディスの子よね?」
「おそらくな。昨日見た気がする。だが、こいつには聞かなければならないことがある。エルディスに渡してやるわけにはいかん。」
「一体何があったのですか?」
今度はソフィアが言う。
「何があったかといえば、こいつが勝手に自爆したとしか言えん。」
俺にとってはそれが正しいが、皆を見る限り信じているようには見えない。
「・・・説明しようにも、俺もよく分からんのだ。だが、こいつがこうなった原因はこいつにあることは間違いない。」
「そうは言うけどよ、イシュバーン。どうしたらこんなになるんだよ。」
ルディの言いたいことは良く分かる。
だが、俺も同じようにそれについて知りたいと思っているのだ。
「だから、こいつに聞くしかないって言っているだろう?とりあえずこいつは宿に連れていく。」
「―ダメよ、女の子と二人きりにさせられない。」
何故かラズリーが異論を唱える。
「なぜだ、ラズリー。そもそもこいつが悪いのだ。」
「イシュバーン様、そういう意味じゃないんです。お嬢様、ここは私たちの部屋に連れていくべきかと。」
ソフィアがラズリーにそう言うと、他の使用人も一同に頷く。
――全く、仕方がないな
「だが、こいつが起きて何をするか分からん。お前たちにだけ任せるわけにはいかない。」
きっと、ラズリー達はこいつを普通の女の子とでも思っていそうだが、とんでもない。
「おい、イシュバーン。何もそんな風に言わなくてもいいじゃないか!」
ルディが文句を言ってくる。
「ルディ、俺は形だけとはいえ、ラズリーの護衛を任せられているんだ。これは譲れない。」
俺はきっぱりと言う。
「・・・分かったわ。じゃあイシュバーンも付いて来て頂戴。」
ラズリーはそう言うと、タオルを取り出して、気を失っている少女の顔や肌を綺麗にする。
「―お嬢様、私が。」
使用人の一人がそう言い、同じようにタオルを取り出すが、
「いいのよ。私がやるわ。」
そう言ってラズリーは少女の肌を丁寧にタオルで拭う。
ちなみに、俺の方も緑の液体が付着しているが、ラズリーがこちらを気にするそぶりはない。
「・・・イシュバーン、俺が拭いてやろうか?」
ルディが気色悪いことを言ってきた。
「ルディ、気色悪いぞ。」
そのまま思ったことを口に出す。
「ひどいな!?」
どうやらルディは傷ついたらしい。
「そいつは俺が持っていこう。」
俺は来た時と同じように、少女を抱きかかえようとするが、
「ダメよ。クラウディア、お願い。」
「分かりました。お嬢様。」
メイド服の女性の一人が少女を背負う。高身長で細身の女性であるが、見かけによらず力があるようだ。
「ソフィア、悪いけど、急用が入ったとアウグスタに伝えて頂戴。私たちは先に部屋に戻っているわ。」
ラズリーはそう言う。
そういえば、ソフィアはアウグスタと面識があるんだったな。
「承知しました。お嬢様。」
そう言うと、ソフィアは階段を降りて行った。




