17話
魔法学院に行く者は貴族が多く、魔法学院アルトリウスを筆頭に、この国の魔法学院には優れた魔法使いたちが多く通う。
今回のパーティーも貴族の多く出席するパーティーであり、ほとんど全ての学生が美しく着飾っていた。それはルディや平民のハーヴェルですらも例外ではない。
だが、ここに、上はシャツと下は道着のような奇抜な恰好をした男がいた。
―しまった
季節は未だ夏。
俺はパーティーに出席することなど人生で片手で数えるくらいの経験しかなく、あまりにも無頓着すぎて今回のラズリーの付き添いをするに当たり、いつもと同じ上下セットを複数持ってくるというチョイスをしてしまっていた。
「―おい、イシュバーン、さすがにその恰好は不味いんじゃないか?変な服を着ているなとは思っていたが。」
ルディが俺を見てそんなことを言う。
確かに、通常の街中を歩くときですら、こんな格好で歩く者はいない。特に魔法王国の王都は上流階級が多く、少なくとも襟付きの上品な恰好をしているものだ。
「・・これはやってしまったかもしれん。」
こんな格好でパーティーに参加する者はおそらく俺一人だろう。
だが、今回メインであるのは俺ではない。メインゲストはあくまでも、ラズリーやレティ、ハーヴェルにアウグスタである。
俺は目立たないように隅の方で飯でも食っておけばいいんじゃないか?
ちなみに、メインゲストたちはそれぞれに用意されたテーブルに魔法学院ごとに集まっている。俺たち付き添い人は後ろに控えているが、会場にはゲストとその付き添いで大体五十人程度は集まっているようだった。パーティーには詳しくないが、それなりの規模であるように見える。
今回護衛の名目で俺も参加しているが、このパーティーで何か危険なイベントが起きることはないはずだ。とはいえ、警戒しておくに越したことはない。ラズリーとの距離を、常に迅雷の射程範囲に入れておく必要があるだろう。
「―諸君。本日はよく集まってくれた。魔法学院ベリタスの魔法学院長をしているゾノスという。」
どうやらパーティーが始まるようだ。
壇上を見ると、某映画の登場人物のような白髭の爺さんが見えた。
「今日のこのパーティーをもって各学院の皆の親睦を深めてもらうことを願う。食事は立食とし、好きなものをとって食べたまえ。」
会場の横に豪華な食事が用意されている。もちろん、付き添いである俺たちも食べてよい。
――ゲームの画面の中でしか見なかった美味そうな料理の数々が、今、俺の目の前にある!
人知れず感動に震えてしまう。
普通、食事ではなく、ゲームの登場人物に出会うことの方に感動するんじゃあないかって?んなこたーない。・・・だって転生先がイシュバーンだからな。
一通りゾノスの挨拶が終わると、次にアルトリウスの学院長であるレグルスの挨拶がはじまった。
「はじめましての者も多いだろう。私はアルトリウスの学院長をしているレグルスという。今回のゲストは皆、このエルドリアの未来を担うべき選ばれた若者たちだ。君たちは、それぞれの魔法学院の代表として明日からの真のランクマッチを戦ってもらうが、その前に共に食事を楽しんで英気を養って頂こうと思う。」
その後も、魔法学院エルディスの学院長の挨拶が続く。
「明日より始まるランクマッチはいわば魔法学院の威信をかけたものである。諸君はまだ一年とはいえ、そのことを忘れぬように。」
エルディスの学院長は原作でも名を名乗らない。いかにも神経質そうな雰囲気である。
そして、最後に魔法学院ロキシャの学院長の挨拶である。
「私はロキシャの学院長をしているラグーリスだ。私は皆に今日の食事も明日からの試合も楽しんで欲しいと思う。今日はお腹いっぱい食べて楽しみ、明日は全力で戦って楽しむ!学院長の挨拶は私で最後だ。席は自由、何を食べるのも誰と話すのも自由だ。それではパーティーを始める!」
ラグーリスの学院長は女性だった。
ラグーリスがそう言うと、皆一斉に動き始めるのだった。




