16話
「・・・わざわざこんなところまでご苦労なことだ。」
ハーヴェルが俺とルディを見て、目を細める。
「俺たちがどこへ行こうが勝手だろう?」
俺はニヤリと笑う。
「ねえ、イシュバーン。もしかして、ラズリー様の付き添い?」
プリムが俺に聞く。
「その通りだ。そして、ルディは俺のお供である。」
「ラズリー様、一体全体どういうおつもりですか?こんな二人をわざわざ引き連れて。」
アイリスがラズリーに訊ねる。
「・・・二人には私が頼んだのよ。」
ちらりと俺の方を見るラズリー。
「ラズリー、君の趣味は良いとはいえないな。」
ハーヴェルがそんなことを言う。
「―分かってるわよ。でもね、誰を付き添いに選ぼうが私の勝手でしょう?」
残念ながら、ラズリーは自分の趣味が悪いのを認めるらしい。
「もう!感じ悪いよ、みんな!」
口を挟んだのはレティである。腕には茶虎猫を持って撫でている。ゴロゴロと喉を鳴らしてとても気持ちよさそうだ。
「ラズリー!お久しぶり!」
レティは相変わらず元気いっぱいのようだ。
「レティ、お久しぶりね?元気にしていたかしら?」
ラズリーはレティに微笑みかける。
―そういえば最近ラズリーは俺に冷たい気がするな?
特にルディをこの場に呼ぶとなってから、そうである気がするが、きっと俺の気にしすぎだろう。
「うん!それに、ええと・・・。キミは―、王都で何度か会ったよね?」
ラズリーに返事をして、それから俺の方を見ながらそんなことを言うレティ。
「イシュバーンだ。レティ、こいつはルディという。」
改めて自分の簡単な自己紹介と、ルディの紹介を行う。
「イシュバーン、ルディ、よろしくね!」
レティは屈託のない笑みを浮かべる。
「ああ、よろしく。」
「よろしく!」
「挨拶は済んだか?夕食は皆の親睦を深めるために大勢で食事をすることになっているらしい。・・・不本意ながら。」
ハーヴェルが俺の方を見てそんなことを言った。
―さて、どうするか?
ここでハーヴェルに舐められっぱなしも気に食わないが、それよりも腹が減った。こんな所で争っても、無駄なエネルギーを消費するだけなのは明らかである。
―今日は確か、立食パーティだったよな?
すると―
「おい、ハーヴェル!喧嘩を売っているのか?」
何故かルディが俺に代わって言い返した。
「やめておけよ、ルディ。お前はこの俺に勝てない。それともイシュバーンと二人がかりでやり合おうってかい?」
ハーヴェルもそれに応酬する。その表情はまるで、俺たちを嘲笑っているかのようだ。
―ムカつく野郎だ
「おお、ハーヴェル、言うじゃあないか。あん? 俺とルディの二人を相手に勝てると思っているのか?」
俺もルディとハーヴェルの口喧嘩に参戦することにする。
とりあえず2対1で徒党を組んで有利な状況を作るのが、このような場面では優れた作戦といえるだろう。
そんな馬鹿な争いを三人でやっていると――、
「―やめなさい!!イシュバーン!!・・・チンピラみたいにみっともない。」
ラズリーがおこになった。
――何故、俺にだけ怒るのか?解せぬ
だが、反論するとますますラズリーのご機嫌を損ねそうだ。
「―イシュバーン様。大人気がありませんね。」
ソフィアまでそんなことを言う。
――くるっと俺はルディの方を向いて、
「ルディ、お前だけだ。俺の仲間は!」
おもむろにガシっその肩を掴む!
「―ひい!!!!」
ルディの悲鳴が聞こえた。今日一番の大声が辺りに響き渡った。
ふとラズリーを見ると額を押さえている。アイリスは相変わらず冷めた目をしている。プリムは呆れた顔だ。ハーヴェルは腕組をしている。レティは猫を撫でながら苦笑いをしていた。
「・・・ルディ、些細な冗談だ。」
その後俺たちはそれぞれ宿の部屋に入った。
ちなみに、魔法学院ごとに割り当てられる宿は異なるようで、魔法学院アルトリウスのメンバーとその付き添いは同じ宿である。
当然俺はラズリーの護衛であるので、ラズリーの部屋の近くだ。そしてルディとは同じ部屋。
ちなみにやはり今回はベッドが用意されていなかった。
「・・・まじかよ。」
ルディの悲し気な声が響くのだった。




