12話
ある昼のこと。
俺はルディと昼飯を食うために、いつもの屋上へ向かっていた。
「ねえ。あなた、ハーヴェルっていう子と模擬戦を行うんでしょう?」
振り返ると、ニヤニヤした金髪のツインテールがいた。
―こいつはこれでも、公爵家のご令嬢なんだよな。
「あん、何か用かよ?」
「あなた、もう少し礼儀を弁えた方がよくってよ。」
「これはこれは、公爵令嬢のラズリー様ではありませんか。本日もご機嫌麗しゅうございます。」
「ほんっっっと嫌味ね、あなた。」
「何だよ。俺は忙しいんだ。それともあれか、俺に惚れたか?」
「・・・何を言っているのよ、あなたは。」
ラズリーはとても呆れた顔をしている。
「はいはい、用がないんなら、それじゃあな。」
「ちょっと待ちなさいよ。あなた、私たちのクラスでも話題になっているわよ。平民のハーヴェルって子より随分と弱いんじゃないかって。」
「ふん、下らん話だ。このイシュバーンがハーヴェルごときに敗北するはずがなかろうよ。」
ラズリーに構わず、その場を立ち去った。
そんなやりとりがあった後、いつもの時間にいつもの屋上である。
今日も今日とて、冷たい風が吹きすさぶ。ひゅぉぉぉぉ。まるで俺たちの心を表しているようだ。
「イシュバーン、今度のクラス合同演習はどーすんだ?」
「ああ?そんなもんあったっけ?ルディは出るのか?」
まじに覚えていない。魔法演習なんてしばらく出ていない気がする。
「・・・イシュバーン、次の合同演習は必修だぞ。」
「なるほど。進級がかかるのか。ルディは出席するのか?」
さらりとまるで他人事のように言ったが、これは出席しなければならんやつ。
「当り前だぜ、イシュバーン。俺はお前と違ってたまに魔法演習に出席してるんだ。」
ルディの属性は土だったか。
「ゴーレムでも作るつもりか?」
「ゴーレム作成は少し難易度が高いが、イシュバーンよりは使える魔法は多いと思うんだ。」
ルディにしては珍しく、自信のある言い方である。
「おまえ、その辺のチンピラと比べているようでは、まだまだ出世は遠いぞ。」
言い得て妙な表現だ。
「・・・自覚はあったんだな。」
遠い目をするルディ。
「俺はルディの足にしがみついてでも生きていきたいからな。」
「―それ、間違っても上級貴族が言う事じゃないからな。」
「ルディ、お前の婚約者は元気なのか?」
「はあ。エミリーに認められるためにも頑張んなきゃいけないというのに。」
ルディには、エミリーという、同じ子爵家の婚約者がいる。
その様子から察するに、あまり上手くいっているとは言い難いようだ。
ちなみに、そのエミリーとやらは、一つ年下のイシュトと同じ年である。
「良いじゃないか、俺なんぞ次のハーヴェルとの決闘に貴族の座と婚約の成否がかかっていると言っても過言ではない。」
「だから、なんでそんなに堂々と言えるんだ、イシュバーン。お前ってほんと変わってるよな。」
「―ふん、ハーヴェルくらい、たわいもない。」
「・・・俺はおまえの性格が羨ましいよ、イシュバーン。」
そう言っていつものサンドウィッチを一口食べるルディ。今日のサンドウィッチはハムと卵で実に美味そうだ。ちなみに俺が食うのは大抵鶏肉の入ったホットサンドだったりする。
しばらく二人して飯をパクつく。
「そういえば、となりのクラスと言えば、セフィリア様とラズリー様がいるクラスじゃないか。」
ルディが思い出したように言った。
「王家と公爵家とは周囲も大変なことだ。」
「イシュバーン、くれぐれも粗相のないようにな?」
親父殿のようなことを言うルディ。
「知っているか?この学院では身分に関わらず、相手に接するということが美徳とされている。つまり、セフィリアであろうが、ラズリーであろうが、臆することはない。」
「・・・それを地でやるの、イシュバーンくらいしか知らないんだよ、俺は。」
ルディが大きくため息をつくのだった。




