14話
イシュバーン様を夕食に呼ぶため、彼の宿泊している部屋を開けると、まるでゾンビのようなおぞましい生き物が2匹、部屋の中にいた。
「・・・」
私が言葉を失っていると、
「どうしたの、ソフィー。」
後ろからお嬢様が声をかけてくる。そして、お嬢様もその光景を見た。見てしまった。
すると、額を押さえて、
「食事の部屋はホテルの使用人に聞きなさい。」
二人にそう言い残して、お嬢様はさっさと彼らの部屋を後にした。
「・・・お嬢様、良かったのでしょうか?」
その後を追いかけながら、
一応あの二人のことをお嬢様に確認する。
ルディ様はともかくとして、イシュバーン様はお嬢様の護衛である。お嬢様がさっさと別行動をするのはどうなのだろうか?
「いいのよ。私たちも使用人を待たせるわけにはいかないもの。あの二人はああなってはもうだめね。」
早口でまくし立てるお嬢様。
「・・・あんなダメな人だったとは。」
―しまった。声に出てしまった。
「そうね。ダメね。ダメ人間なのよ。特にイシュバーンは!」
少し苛立つような口調のお嬢様。
「・・・いつもあんな感じなのですか?」
魔法学院でのイシュバーン様の様子を私は知らない。
「そう!そうだったのよ!私ったらすっかり忘れていたわ!!」
速足で歩くお嬢様。
「―お嬢様、こちらの階段を降りるはずです。」
どんどん先に進んでいくお嬢様。その先は行き止まりのはずだ。
「お嬢様!」
私は大きな声で言う。
「―はっ!ああ、ソフィー。ごめんなさい。」
すると戻って来る。
「・・・少しは見直したと思ったのよ。」
お嬢様は爪を嚙みながらそんなことを言う。
これはお嬢様が何か物事に行き詰まりや、不平・不満があるときに見せる仕草だ。
そうして、他の使用人と宿にあるレストランで合流する。
「後で二人ほど男が来ると思うけれど、別の席に案内して。」
お嬢様はそっけなくレストランの支配人に言う。
「―お嬢様、よろしいのですか?」
別の使用人が言う。
「いいのよ。」
これまたあっさりとお嬢様は返す。
ほどなくして、間抜けな顔をした男二人が別のテーブルに案内されるのが見えた。
「・・・まったく、人の気も知らないで。」
呆れた様子で呟くお嬢様。
今回のお嬢様の護衛には公爵家から腕利きの護衛が派遣されている。お嬢様の話によれば、イシュバーン様はその全てを相手にしたとしてもほぼ無傷で対処できるとのことらしい。
あのシュベルツ様を相手に奮闘してみせたのは、確かに見た。しかし、お嬢様によれば、今見たイシュバーン様が本来のイシュバーン様であるといった様子である。
「・・・本当にお嬢様をお救いになったのはイシュバーン様なのですか?」
少し確認を入れてみることにする。
「それは間違いないわ。でも、今考えても、まるで御伽噺の世界のようだったのよ。・・・幻覚でも見ていたのかしら。」
その当時の話はお嬢様の口から一通り聞いている。が、聞いている私としても幻覚という方がしっくりくるような類の話であった。
そんなことを話していると、食事が出て来た。
今回、お嬢様は使用人たちとテーブルでお食事をされる。
普段、使用人たちとテーブルを囲むことはほとんどないお嬢様だ。
しかし、使用人と一緒にテーブルに着くことを気にするような性質ではないことを、私はよく知っていた。




