13話
アドカリに着くころには既に夕方になっていた。
「―やっと到着したか。」
出発したのが朝早くだから、かなり長い間、馬車に揺られていたことになる。
しばらく持ってきた本を読んでいた。しかしそれも飽きて、ルディは馬車の中で寝て、俺は適当に外の景色を眺めていた。
「――ふああ。・・・寝すぎて明日起きられるかどうか心配になってきた。」
ルディがそんなことを言う。
「ルディ、おまえは明日何か頑張る必要があるのか?」
「・・・それを言ったらイシュバーンも同じだろうが!」
「・・・それもそうだな。」
俺もラズリーの護衛という名目の付き添い人にすぎない。本当に明日から頑張る必要があるのはラズリーであるのだ。
「まあ、気楽にやろうぜ。」
ルディに言う。
馬車から降りると、ラズリーとソフィアは既に馬車から降りて俺たちを待っているようだった。
「それじゃ、行きましょうか。」
ラズリーがこちらに声をかけてきた。
ラズリーとソフィアを先頭に、俺とルディは後に続く。
宿はどうやら高級宿のようだ。ロビーに入ると、ソフィアがフロントの従業員に話しかけ、宿泊の手続きをする。
その後、ソフィアから告げられた部屋へと向かう。俺とルディの部屋は、ラズリーとソフィアの部屋の隣であるらしい。
「イシュバーン様。もし宿の外へ行かれる際には、私かラズリー様へ声をおかけください。」
「―また夕食のときにね?」
ソフィアとラズリーはそう言って、自分たちの部屋の中に入っていった。
俺はソフィアとラズリーに、分かったと返事をして、
「ルディ、部屋に入るぞ。」
緊張した様子のルディに声をかけ、部屋の扉を開ける。
「・・・これはラズリーに感謝だな。」
本来、俺の部屋は一人部屋だったはずだ。だが、目の前にあるのは二人部屋だった。
「ああ・・・。さすがはラズリー様だ・・・。」
ルディは感激している。
どうやらルディのために寝袋を用意したが、今回は使わずに済みそうだ。
「さてと。まだ夕食まで少し時間があるな。」
俺はそう言うと、カバンから本を複数取り出す。
「なあ、イシュバーン。少し町まで行ってみないか?」
ルディはそんなことを言う。
「おいおい、ルディ。お前は勉強をしにここまで来たんじゃあないか?」
浮かれ顔のルディに釘をさす。
「なんだ?イシュバーン。イシュバーンにしては随分と真面目じゃないか。」
「当り前だぜ、ルディ。俺も、お前と状況的には変わらんからな。」
ラズリーから試験範囲を聞いただけにすぎない。実力的にはルディとほとんど変わらないのだ。
「―とはいえ、喉が渇いたな。紅茶でも入れるか。」
部屋の中には水差しの準備がされていて、紅茶を入れる道具もある。
自分の分のカップを部屋の戸棚から取り出し、
「ルディ、お前も飲むか?」
ルディに紅茶を飲むかどうかを訊ねる。
「ああ、もらうよ。悪い。」
俺はもう一つカップを取り出し、ポットに水を注ぎ、茶葉をセット。そしてスイッチを押す。すると、予め魔力の蓄えられた魔石が輝きだし、湯が沸く。
「「ふうー。」」
二人してくつろいでしまう。もはや勉強どころではない。
「ああー、何もしたくねー。」
俺はそんなことを言う。
「おい、イシュバーン。さっきと言っていることが違うじゃあないか。」
「いいんだよ。さっきはさっき、今は今だ。」
「ちょっとは見直したってのに、何なんだよ、イシュバーン。」
「そう言うなら、さっさと勉強をし始めるべきだぜ?ルディ。」
「・・・俺もやりたくねー。」
いつものようにダメダメな二人である。
しばらくそうやってグダグダしていると、コンコンとノックが響く。
ちなみにオートロックとかではないので、鍵は開いている。
「イシュバーン様?」
扉が開き、ソフィアが椅子でぐったりする二人を目撃する。
「どうしたの、ソフィー。」
ソフィアの後ろから、ひょっこりと顔を出すラズリー。
ソフィアが言葉を失っていると、ダメダメな様子の二人を見て、ラズリーが悩まし気な顔をして、額に手を当てるのだった。




