12話
いよいよ魔法学院ベリタスのある商業都市ゼリウスに行く日が来た。
「本当はイシュバーン様も私たちと同じ馬車の予定でしたが、今回は後ろの馬車でお願いします。」
ソフィアからそんなことを言われる。
「ソフィア。ラズリーはそんなにルディが嫌なのか?何が嫌なのか聞いてくれないか?」
「お嬢様はそんな方ではありません。・・・どちらかと言えば、イシュバーン様が悪いと思いますよ。」
つまり、ラズリーは俺だけを見ていたかったと!そういうことなのだろうか?
「ソフィー、馬車に乗るわよ?」
ちょうど良い所にラズリーがトコトコとこちらに来て、ソフィアに声をかける。
―ラズリー、君は俺に惚れているのか?
と、声を出しそうになったが、これは直接言うべきではないだろう。自意識過剰な変態キモイ人認定されかねない事案だ。
俺は直立不動の姿勢をとる。
「・・・そんな棒のように突っ立ってどうしたの、イシュバーン?」
ラズリーが首を傾げる。
「いや・・・。何でもない。」
「そう?行きましょ、ソフィー。」
そう言うと二人は前の馬車の方に行った。
ちなみに、ルディは既に後ろの馬車の中に乗っており準備万端のようだ。
俺は馬車の扉を開けると、以前乗った馬車と同じようにそれはとても乗り心地が良さそうな馬車だった。
「遅いぞ、イシュバーン!見ろよ、これ!ふっかふかだぜ?」
ルディのテンションは高い。
―まあその気落ちは分からんでもないな
俺が持ってきた荷物はルディが既に馬車に運び込んでいる。
「・・・イシュバーン、ラズリー様に嫌がられたりしないか?」
ルディはちょっぴり不安なようだ。
「いや、ソフィアに聞いてみたが、どうもそういうことはなさそうだったぜ。」
よっこらせと俺は馬車に乗り込む。
「?ソフィアって誰だ?」
「ああ、公爵家のメイドだ。」
「・・・イシュバーン、お前、いつの間に公爵家とそんなに仲良くなったんだ?」
「侯爵家の人間だから色々と伝手はあるだろう。ま、俺の場合は廃嫡されているし、たまたま事件の後に通りがかっただけだが。」
そんなことを言っていると馬がいななき、馬車が出発する。
「その事件についてだが、実際には、何があったんだ?」
「さあな?俺が知るわけないじゃあないか。」
「だってよ、イシュバーン、おかしいと思うぜ、俺は。だってそれから、急にラズリー様とお近づきになったじゃないか?」
「・・・本人に直接聞いてみたらどうだ?」
「―それができたら苦労しないぜ、全くよお。」
ちなみに、馬車は四人乗りであり、俺とルディはちょうど対角線に座っている。
途中、アドカリという小さな町で一泊するらしい。
「―ルディ。ちゃんと本は持ってきたか?」
「もちろんさ。ちょっと待ってろ。・・・どうだ!」
そう言うと、ルディは荷物の中から【詠唱魔法の基礎】という本を取り出す。ちなみに俺もその本は持ってきている。
「他の本はどうだ?」
俺がラズリーから聞いた情報によれば、試験があるのは、詠唱魔法の基礎、魔法陣の基礎、一般魔法論基礎と、剣術の基礎だ。ほとんどのアルトリウスの学生はこれらの科目を履修するので、これらの試験を受けるのはほぼ全てのアルトリウスの学生のようだ。
ちなみに剣術の基礎とあるが、魔法学院では実際に剣術の講義もあれば、剣術の実技もある。未だ剣術の実技は開始されていないが、後期から始まるらしい。
ラズリーにはアンタそんなことも知らないの?と言われたが、俺と同じく、ルディも把握してはいなかった。
「他の本も持ってきているぞ?」
そう言うと、ルディはそれぞれの科目に対応する本を取り出す。
「ルディ、講義の板書は書き留めているか?」
当然、俺は板書を書き留めてはいない。
「いや・・・。」
ルディに少し期待したが、当然ルディも同じ。
「「はあ。」」
二人して馬車の中でため息をつくのだった。




