9話
昼食後、俺はまたしてもセバスと対峙している。
「さて、坊ちゃんの練習の成果を見せてもらいましょう。」
すると、セバスはどこからともなく木剣を取りだす。
一体どこにその木剣をしまってあるのか気になるが、今はそんなことはどうでもいい。
「善処しよう。」
俺も木剣を構える。
「本気でかかってきなさい。」
今回はセバスも俺と同じ構えだ。正統派騎士剣術の基本の構えである。
「―いくぞ!」
俺はセバスに向かって駆け出す!
「とりゃ!」
渾身の一撃をセバスに振り下ろす!
―ガシッ
セバスは俺の剣を両手で受け止める!
――まだまだ!
「そおりゃ!」
声を出し、今度はセバスの剣を下から弾く!
―あとは突きだ!!
――そう思ったとき
カアンッ
俺の剣はセバスに簡単に弾かれてしまった。
「・・・」
あまりにナイスなタイミングすぎて言葉が出ない。
「少しずつですが、良くなっていますね。」
セバスは剣をどこかへしまう。
「―ですが、まだまだ練習が必要でしょう。」
セバスは自身の眼鏡を調節しながら続ける。
「坊ちゃん、また後日お相手致します。坊ちゃんの剣のための練習台を用意しておきます。」
そう言うと、セバスは失礼しますと言って別邸の方へ行ってしまった。
―まだまだ先は長いな。
俺は弾かれた剣を取りに行き、そして離れの館に戻ることにした。
離れに戻ると、すぐに鍛錬場に向かう。
「今のうちに闘気の扱い方にも慣れておかねば。」
鍛錬場に来てすぐに座り、目を閉じ、瞑想する。
「・・・」
以前の瞑想でコツを掴んでからは、すぐに自身の気の流れを感じることができる。
「・・・・・」
そうして、俺は垂れ流しになっている自分の気を手に集中するように意識する。
―なんとなくだが、自分の手に気が集まり、熱くなっている気がする。
目を開けて、その状態を保ち、俺はサンドバッグを素手で打つ!
―ズシン!
いつもより威力のある突きを打てた気がする。
「もう一度だ。」
俺は同じように自分の気を手に集中させてから
突きを繰り出す!
――ズシン!!
明らかにいつもの突きに比べて重い突きを繰り出すことができている。
―後はこれを実戦で自在に出力できるようになれば・・・。
だがそれには森かダンジョンに行き、実際に魔物を相手にする必要があるだろう。
「闘気を本格的に試すのは対外ランクマッチの後にするしかないな。」
実際の対外ランクマッチで頑張るのは俺ではなく、ラズリーである。そのため、ランクマッチまでに何か新しい技を覚えることに緊急性はない。もっとも、だからといって日々の鍛錬をサボる理由にはならないのだが。
俺はしばらくサンドバッグに拳と蹴りを打ち込む鍛錬を行うことにした。
しばらくそうして鍛錬を行っていると。
―ジリリッ
玄関のベルが鳴る。
「・・・誰だ?」
今はまだ夕飯前。この時間に訊ねてくる予定のある者はいないはずだ。
俺は魔眼を使って玄関の外にいる人物を見る。この魔眼だが、慣れてくれば本当に便利だ。
すると、外にいるのは俺の見慣れた顔のようだった。
―ルディか。
俺は玄関の扉を開けることにする。
「どうした、ルディ。」
玄関を開けるなり、ルディに声をかける。
「うおっ!いきなりびっくりするじゃねーか、イシュバーン!」
「―それはこっちのセリフだ、ルディ。何か用か?」
「あ、ああ。イシュバーンよ、そろそろ試験じゃないか?少し一緒に勉強しないか?」
どうやらルディは休み明けの試験勉強をしたかったらしい。
「―そうだな。俺もやらねばならないと思っていたところだ。」
本当は鍛錬と剣の訓練のことで頭がいっぱいだった。
「イシュバーン、おまえこんなとこに住んでいるんだな?」
ルディは玄関から離れの館の中を見てそんなことを言う。
「住めば都というやつだ。この場所へはセバスにでも聞いたのか?」
ルディは元々俺が離れに住んでいる事は知っていたが、ここの正確な場所は知らないはずだ。
「セバスってあの背の高い丸い眼鏡の執事のことか?」
「ああ。セバスに聞いたのか。まあ、中に入れ。」
そう言って俺はルディを部屋に案内することにした。




