8話
それからしばらく経ったある日の朝。
素振りをしている最中にあることを思いついた。
―この木剣と雷切を合わせるとどうなるんだ?
俺は素振り中にふとそんなことを思い至った。
確か、雷切を覚える前に短剣に雷を付与することができたはずだ。
魔法王国エルドリアでは、その主人公であるハーヴェルは自分の属性を自身の剣にエンチャントすることができる。俺も同じことができるのではないか?
そう思い、木剣に雷切を合わせることにする。
バチバチ・・・バチンッッ!!
木剣が耐え切れずに粉々になった。
「・・・なるほど、木剣では雷切に耐えられないのか。」
そこで俺は、離れから短剣を持ってきてもう一度今度は鉄の短剣に雷切を合わせる。
バチバチバチ・・・バチンッッ!!
「―うぉっ!」
短剣の破片がこちらに向かって飛んできた!
結果はさほど変わらない。雷切を通常の武具に合わせることは困難なようだ。
―だが、最初のころ、俺は短剣に電撃を付与できていたよな?あれはどうしていたんだっけ?
・・・確か
俺はまず短剣に魔力を纏わせる。そして、それを電撃に変換する!
「ぬぅぅう」
雷切を使うよりもすさまじく魔力効率が悪い。魔力を武器に維持するのがかなり難しいのだ。
何なら雷切を作る方がずっと簡単である。
これは自分の魔力を電撃に変換しながら、魔力で自分の電撃を防御する作業を同時にしているようなものだった。
ハーヴェルはどんな武器にもエンチャントすることができていたが、逆に雷切のようにずっと魔法を維持するようなことはしなかった。魔法剣は発動の一瞬に魔力を剣にエンチャントして、それを一気に爆発させるといった技だったはずだ。
―魔力の特性か、属性の特性か。
そもそもエンチャントという技そのものが俺には向いていない可能性がある。
「雷切の威力に耐えられるような剣を探してくるのが一番よいのだろうが、」
―我が家の家宝で試してみるのはどうだろう?
・・・
パリーン
「―やはり我が家の家宝でも雷切に耐えることはできないらしい。」
「ひいいいい!イシュバーン!貴様!!!何てことをしてくれるんだ!!!!!!!!」
「この程度で壊れる家宝など家宝とは呼べんだろう?」
「ああ!ああ!我が家の家宝が!!こんなになってしまった!!!!ああ・・・」
―バターン
・・・
今のところヘイム家の家宝はイシュトのものだし、そもそもその家宝とやらが雷切に耐えられることの保証がどこにもない。
試しにやってみて我が家の家宝が粉々になったら、親父なんかは白目をむいて卒倒しそうだ。
「家宝で試してみるのはやめておいたほうがいいな。」
そんなどうでもいいことを考えていると、向こうからメイドがやって来るのが見えた。
「―こちらにおいででしたか。イシュバーン様、本日の昼食です。」
そう言ってメイドがこちらに昼食入りのバスケットを手渡してくる。
「ああ、いつも悪いな。」
「あと、セバス様より伝言です。昼ごろに練習の成果を見せてもらいたい、とのことです。」
「―分かったと伝えてくれ。」
あれからしばらくセバスは俺の剣の訓練の様子を見に来ていたが、特に何を指摘するわけでもなく、たまに雑談をする程度だった。
―少しは素振りをして剣にも慣れてきただろうか?
今回剣を訓練しているのは、メンツの問題もあるが、戦闘の幅を広げるという目的が大きい。
セバスによれば、騎士剣術は様々な戦術がある。例えば、かつての日本では刀を投擲するなどは有り得ないことで、そんなことをしたら恥とすら言われるものだったが、こちらの騎士剣術、つまり西洋剣術といっていいだろう、はロングソードを投擲する訓練があるらしい。
武器の種類もバトルアックス、ハルバード、モーニングスター、槌、槍、弓、その他にも様々であるようだった。
いずれ習う機会があれば、日本の刀も習ってみたいものだが、俺にとっては、まずは正統派騎士剣術をある程度できるようにするというのが自身の剣の成長の近道のような気がする。




