7話
翌日。
俺はいつものルーティンを終えると、さっそく剣の素振りを練習することにする。
「ふっ。ふっ。」
俺はセバスに習ったように剣を繰り返し振るう。
正統派騎士剣術というらしく、西洋の剣術にとてもよく似ていると感じる。
当然、腰が入っていなければ模造剣といえども、十分に威力を出すことはできない。腰を入れて振るう剣は、腰を入れずに振るう剣よりもまるで勢いが異なる。
騎士剣術にもいくつか種類があり、今俺が練習している正統派騎士剣術は、王国で最もポピュラーなもので、これをマスターしておけば騎士としてある程度は活躍することができるらしい。
―俺は騎士として働く気はあまりないが
だが、本来であれば、貴族の護衛などは、剣にも魔法にも長けた者が行うべきである。たまたまラズリーの護衛を任せられることになったとはいえ、護衛をやっているのに剣も扱えないというのは少し格好が悪い気がしないでもない。
「―坊ちゃん、もう少し剣に集中しなさい。」
「おわっ。」
急にセバスの声が聞こえた。
「斜めに剣を構えて、それを対角線に振り下ろす。右の肩口から左の肩口へ、左の肩口から右の肩口へ。それができれば、今度は左のつま先から右の肩口へ、右のつま先から左の肩口へ、剣を振り上げる。それができれば、更に突きを繰り出す。端的に言ってしまえば、振り下ろしと、振り上げ、そして突き。これをそれぞれ繰り返し行うのです。」
セバスは更に続ける。
「―慣れてくれば、振り下ろしと振り上げと突きを一連の動作で行うことができます。振り下ろしで相手の剣を叩き、振り上げで相手の剣を弾き、そして突きでとどめを刺すのです。正統派騎士剣術の全てがこの一連の動作にあると言っても過言ではありません。―このように!」
すると、セバスは流れるような動作で、振り下ろし、振り上げ、そして突きを繰り出す!
それは、いつか見たイシュゼルの剣の流れを思い出させるものだった。ただし、セバスの剣と比べるとイシュゼルの剣の方はかなり変則的に思える。
「・・・セバス、ドライブという技を知っているか?」
俺は気になったのでセバスに聞いてみることにした。
「―坊ちゃん、どこでそれを?」
セバスは驚いた様子でこちらに訊ねる。
「いや・・・。魔法学院でそんな技を使うやつがいたという話を聞いてな?」
イシュゼルは魔法学院に通っていたらしいので、そういうことにしておこう。
「ドライブはイシュゼル様の独自の剣術の一つです。あの方は天才でしたので、いわばイシュゼル流とでもいうべき剣術を使っておいででした。」
「―つまり、ドライブはセバスにも使うことはできないのか?」
「私もイシュゼル様には敵いませんが、ある程度ドライブを再現することは可能でしょう。」
そう言うと、セバスは眼鏡の位置を調節する。
続けてセバスは言う。
「ですが、坊ちゃんにはまだまだあれは早い。剣を知るのであれば、まずは先ほどの私の動き程度はできるようにするのです。」
「ああ、そうだな。」
それについてはセバスに同意だ。
おそらく、イシュゼルはあの時点で、正統派騎士剣術を既に十分に扱うことができたのだ。今の俺がいきなりドライブを真似しようと思っても、それは難しいだろう。
「それでは私はこれで。またこうしてたまに坊ちゃんの所に顔を出しそうと思います。」
そう言ってセバスは別邸の方へ戻って行った。
まずはそれぞれの動作を繰り返し体に覚えこませた方がよさそうだ。対角線に振り下ろし、対角線に振り上げ、そして突き。これをそれぞれ繰り返す。
「ハッ!ハッ!」
剣を振るごとに声を出すと腹に力が入り、自然と腰が入り、剣に勢いが出ることに気が付く。
―そういえば、剣道でも声出しは大事とか聞いたことがあったな。
古武道でも最初は気合入れなどの稽古を行う。
意外にこれまでの武術もある程度は剣術に応用可能であるのかもしれない。そんな感じで俺は剣の素振りを繰り返すのだった。




