6話
翌日。
「どこでもいいので、打ち込んでみてください。」
「―分かった。ではいくぞ!」
俺はいつものように縮地を使って間合いを詰めようとするが
「―む?」
何か上手く縮地を使うことができない。体のバランスが妙な感じだ。
「―どうしました?手加減は無用ですぞ?」
「いや・・・。まあいい。いくぞ!!」
気を取り直してセバスのところまで走っていくことにする!
―遅い
剣を持つと何故か上手く縮地が使えず、少しの距離にも拘らず俺の足が遅いのだ。
そうして、やっとセバスのところにたどり着いて。
「とりゃっ!!」
―ぶん。
カンッ
俺の両腕の渾身の一撃が、何と片手で止められてしまう。しかも音も軽い。
「・・・ん?」
さすがに何かの間違いだろうか?
「坊ちゃん、もっと打ち込んできてよいですぞ?」
「あ、ああ。―とりゃっ!!!」
―ぶん。
カンッ
またしてもセバスに片腕で止められてしまう。
「まじかよ・・・。」
全く手加減したつもりはない。むしろ、いつもの突きや貫手をするときよりも全然力を込めて打ち込んでいるはずだ。
「大体の坊ちゃんの剣の実力は分かりました。ではこちらから坊ちゃんに打ち込みますので、剣を使って防御してください。」
「・・・分かった。」
俺は剣を構える。
「・・・坊ちゃん、もっと腰を入れて。」
いつの間にかへっぴり腰になっていたようだ。
「も、もちろんだ!」
セバスは剣を構えると一気に距離を詰めてくる!!
―速い!!!
ブォン!!!
俺は自分の剣を放り出して、つい癖で、体捌きを利用してセバスの剣を避けてしまった。
「・・・坊ちゃん、今のは??」
剣を空振りしたセバスが驚いた表情で聞いてくる。
「―ボアの突進を何度か避けていたからな?」
「ボアの突進程度でそこまでの動きができるとは思えませんが・・・。なるほど、そういうことにしておきましょう。ですが、剣の練習にはなりませんぞ?しっかり剣を使って防御するのです。もう一度。」
そう言うと、セバスは剣を構える。
―まじかよ
考える暇もなく、セバスが突っ込んでくる!!
―もうどうにでもなれ!!
カアン!!
俺は迫りくるセバスの剣に対して何とか剣を合わせることができた!
「おわっ!!!」
だが勢いに押されて尻もちをついてしまう。
「・・・なるほど。坊ちゃんは剣をあまり得意ではないようですね?」
―そりゃ剣なんて扱ったことなんてほとんどないからな。
「当り前だ。剣なぞ、ほとんど扱ったことないからな。だからこうやって練習をしているのだ。」
いきなり剣が使えるようになるなら、わざわざセバスに剣を教えて貰う必要などないのだ。
「分かりました。坊ちゃんにはまず剣の素振りをしてもらいます。」
セバスは眼鏡を調節しながら言う。
「素振り?」
「はい。いくつか型はありますが、正統派騎士剣術の素振りが一番やりやすいでしょう。」
そう言ってセバスは模造剣を持った俺の腕を肩口に掲げる。俺の見たことのある剣道の構えとは全く別物だ。
「そして、肩から腰をひねり、斜めに剣を振りおろすのです。左右数回繰り返してください。―このように。」
「・・・こうか?」
俺はセバスの手本通りに右、左と剣を交互に剣を振り下ろす。
「よろしい。それを素早く何度も繰り返し練習してください。」
「―それだけなのか?」
もっと他に何かあるのでは?
「それだけです。他の技術は素振りができるようになってからですね。そうですね。一週間程度は時間をとって素振りを繰り返してください。」
「これを一週間か・・・。」
「またここでお相手致しましょう。」
こことは、今俺たちがいる所で、離れの館のちょっとした中庭のような場所である。
「分かった。」
「それでは、私はこれで失礼します。」
そう言うと、セバスは別邸の方へ戻って行った。
―思ったより地味だ
だが、どんな鍛錬も初めは地味なものだ。徐々に剣を扱えるようにしていけばよいだろう。




