5話
翌朝、朝食を食べて、ラズリーとソフィアは公爵家が迎えにくる時間だと言う。
俺はせっかくなので別邸から少し離れた場所に二人を待つ馬車まで送りに行くことにした。
「それじゃあ、またね?」
「それでは、イシュバーン様。また魔法学院ベリタスに向かう際にお迎えに上がります。」
そう言って二人は公爵家の馬車に乗り込み、去って行った。
魔法学院ベリタスか。
魔法学院アルトリウスは王都に存在するが、魔法学院ベリタスがある街は商業都市ゼリウスであるという。どのくらいの距離にある場所なのだろうか?
「―商業都市ゼリウス、ですか?」
俺は昼食をメイドに代わって持ってきたセバスに商業都市ゼリウスについて訊ねる。
また何か面倒なことを言い出したといった表情を浮かべるセバス。
「ああ。どこにあるのかと思ってな?」
「商業都市へは王都から馬車が出ていますよ。確か・・・馬車で一日か、二日程度の距離だったはずです。」
「それなりの距離だな?」
「ええ。ですが、街道が整備される前は荒れた道を行かなくてはならず、少し大変だったと聞いています。」
「―ところで、セバス。セバスは剣が使えたんだな?」
俺は少し気になっていたことを聞くことにする。
「・・・坊ちゃんにばれてしまいましたね。確かに、私は剣を扱うことができます。」
「イシュトの剣の師は他にいたはずだが。」
俺はセバスが剣を扱っているところを見たことがない。イシュトも見てはいないだろう。
あの場で知っていたのは俺の親父だけのようだった。
「イシュト様には正式な正統派騎士剣術の先生がついていますからね。私の剣は我流から始まっておりますですので。」
「・・・セバス、俺に剣を教える気はないか?」
「―ほう。坊ちゃんが剣を学びたいと言い出すとは驚きですな。」
そう言ってセバスは眼鏡の位置を調節する。
「・・・先ほども申し上げた通り、私の剣は正式なものではありません。それでも構いませんか?坊ちゃん。」
「―ああ。問題ない。」
俺は自信をもってそう言う。
「今夜にはご当主様とイシュト様は領地の方へ戻られるはずです。それでは明日からにしましょうか。」
「分かった。では明日からよろしく頼む。」
俺は一人で昼飯を食いながら、これからの鍛錬の方針について考える。
「まずはセバスから剣の技を得る。」
当然ながら、剣を極めることが目的ではない。しかし、俺の技の範囲を広めることができる可能性がある他、剣の鍛錬を通じて闘気の鍛錬も兼ねることができるかもしれない。また、アルトリウスでは剣の実技などもあると聞いている。
―そういえば、最近瞑想を行っていないな?
せっかくだからこの後、瞑想を久しぶりにしてみることにしようか。
「次に、雷切の鍛錬だ。」
雷切はしばらく継続的に鍛錬を行っているが、魔力操作の精度が上昇しているのか、少しずつ短剣を作る速さが上昇している。今では20秒程度あれば1本作ることができていた。
―だが、まだまだ遅い。
短剣程度であれば数秒で、できれば瞬時に作ることが俺の理想である。
他にも鍛錬をするべきことはあるかもじれないが、一度にいくつもの鍛錬を同時に行うことはできない。ある程度集中と選択をすることが必要だろう。
飯を食べ終えて、
「―まずは瞑想からやってみることにするか。」
俺は鍛錬室に向かうことにする。
「・・・」
目を閉じるとわずかな気の流れを感じ取ることができる。おそらくはこれが闘気の元となるものだろう。
―であれば、魔力と同じように扱うことはできないか?
魔力集中をするときと同じように気の流れを集中しようとする。だが、間違って魔力集中を行ってしまった。当然気の流れを感じ取ることは中断される。
「無意識に扱うことはできるのに、意識すると妙なことになるんだよな。」
これが俺にとって鍛錬を難しくさせている原因である。
魔力は意識しないと使えないのに、闘気は意識すると使えなくなる。やはり魔力とは全く異なるものと考えたほうがよいだろう。
「待てよ・・・?」
魔力は意識しないと使えないのに、闘気は意識すると使えない?
つまり、闘気は意識せずともそもそも使えるものであるということ。つまり、魔力のように使えば減るものではない?
そもそも気の流れを感じ取るとはどういうことだろうか?
きっと意識せずとも予めそこに存在するものを感じ取るということだ。
―つまり
「俺が正拳突きをしたり、蹴りを繰り出したりするとき、あるいは、走ったり、こうやって呼吸したりするときですら、闘気が存在するのでは・・・?」
「・・・」
もう一度俺は瞑想する。それは既にそこに存在する。もしかすると、転生前にも俺は無意識に闘気を使用していた。それを魔力で認識することができるようになっただけだとすれば―
――確かに気の流れを感じ取ることができる
「一歩前進だ。だが、これもまだまだ初歩中の初歩にすぎないか。」
俺の今の目標は自在に闘気の大きさを調節できるようにして、あの岩を闘気のみで砕くことができるようにすること。
だが、それでも闘気の仕組みを知るのと知らないのとでは大違いだ。千里の道も一歩よりである。




