4話
「―ねえねえ、ここにある本、借りてもいいかしら?」
ラズリーが本を見たいというので、応接間に案内すると、彼女はそんなことを言った。
「ああ、問題ないぞ。」
「ねえ、ソフィア。この辺りの本借りちゃいましょう。」
ラズリーはそう言うと、応接間にあった本をいくつか手に取る。
「イシュバーン様はこれからどうなさるのですか?」
ソフィアが俺に聞いてくる。
「俺か?俺は風呂に入って寝るだけだぞ?」
「ねえ、喉が渇いたらどうすればいいの?」
ラズリーがこちらに聞いてくる。
「そうだな。後で水差しを持ってこよう。」
「―ミルクがいいわ。ね、ソフィー?」
「ええ、お嬢様。」
―さすがはお嬢様
「まったく、お前たちは俺を一体何だと思っているんだ。・・・温めるのか?」
「ええ!お願い。」
にっこりと微笑むラズリー。
―その笑顔はずるくないか?
はいはいと頷いて、俺は食卓に行き、ミルクを専用の鉄製のポットに注ぎ、魔石の上にのせる。魔力を通し、ポットを温める。
魔法学院エルディスの魔法使いについてはソフィアもよく知らないようだった。
―面倒なことにならなければよいが。
ミルクも温まったことだし、部屋に持っていくか。
俺は二人のいる部屋の前で止まり、ノックをする。
コンコン
「―入って?」
ラズリーの声が聞こえてきた。
「ミルクを持ってきてやったぞ?ここに置いておくぞ。」
俺はそう言うと、二人のベッドの前にあるテーブルにミルクを二つ置くことにする。
「ええ、ありがとう。」
「ありがとうございます。」
二人を見ると、椅子に座るラズリーとその髪を丁寧にとかしているソフィアがいた。
「ああ。俺は風呂に入ってくる。風呂から出たら自室にいるから、何か用事があれば隣の部屋に呼びに来てくれ。」
そう言うと、俺は風呂に向かうことにする。
風呂から出て、俺は自室に向かうことにする。
ベッドに腰かけ、食卓から持ってきた水を一口飲み、一息つく。
二人とも静かだな?
俺は念のため、二人の様子を魔眼を使って確認することにする。
すると、ラズリーは寝そべりながら本を読み、ソフィアはベッドに座って今度は自分の髪をとかしている様子が見えた。
―念のためとはいえ、あまり女子の部屋を覗き見するのはやめておいたほうがいいな。
「そういえば、今日の分の鍛錬がまだだったな。」
慌ただしい一日だったので、自分の鍛錬のことが頭からすっぽりと抜けてしまっていた。
―せめて、雷切の鍛錬くらいはやっておくべきだろうか?
だが、ソフィアもラズリーも魔力を何らかの方法で感じることができるらしい。
「今日の分の鍛錬はやめだな。」
たまにはこういう日があってもいいだろう。
そうして俺も同じように応接間に行き、適当な本を持ってくることにする。
【秘密の花園 ~俺たちの秘密の楽園~その2】
何でこんなものが俺の家にあるのかさっぱり分からないが、部屋に持って行って中身に目を通すことにする。
・・・
『おお、愛しのマイハニー。そなたの愛に俺は今報いることにしよう!』
『ああ、愛しのダーリン!君のその逞しい手が僕を包み込むんだ!何て素晴らしいことだろう!』
―そして男たちは抱擁し、涙を流しながら熱い口づけをするのだった。
ぶちゅう
以下略
・・・本の中身は、男たちが繰り広げる熱く濃厚なラブロマンスだった。
「なるほど、御婦人であったか・・・。」
漢字一文字が若干異なることにご注意されたい。
―イシュゼルはこのことを知っていたのだろうか?
セバスの話によると、イシュゼルは恋多き者だったらしいので、この本の持ち主がリーナであるとは限らない。だが、おそらくイシュゼルの恋人にそういった高貴な趣味の人間がいたのだろう。
「ていうか、これ、シリーズものなのか。」
そういえば、ラズリーは何の本を持って行ったんだっけ・・・?
頭が痛くなったところで、コンコンと扉が鳴る。
部屋の扉を開けると、ラズリーがいた。
「どうした?」
「夜中遅くにごめんね? ・・・お手洗い、付いて来てほしいの。」
もじもじするラズリー。
「あ、ああ。もちろん!」
どうやらソフィアはもう寝てしまったらしい。妙に艶っぽい彼女にドギマギしてしまう俺だった。




