3話
飯を食った後は、ラズリーとソフィアを先に風呂に入れることにした。
ネグリジェについては二人とも自分の分を持ってきているようだ。
流石に二人同時に入る分には狭いだろうと思ったが、ラズリーの背中をソフィアが流すなどで、二人一緒に入るらしい。
―やっと一人の時間ができた。
女子二人を同時にもてなすのは随分と気を遣うようだ。肩がこるぜ!
とりあえず、することもないので、俺は自分用に紅茶を入れることにする。
そういえば、この世界には娯楽があまりない。
今後もしかするとラズリーがまた遊びに来ることもあるだろう。そのときはソフィアも一緒だと思われる。複数人で気軽に遊ぶことのできる、トランプなんかがあればいいのだが―
―今度、金物屋へ行ってみるか。
あの店に行けば、もしかするとそういった類の物もあるのではないか?直感的にそう思った。
食卓で一人紅茶を飲んでいると、風呂場の方からきゃあきゃあと声が聞こえてきた。どうやら風呂から上がったらしい。
その声は扉を閉めている食卓の前を通り過ぎ、二階に向かって行った。自室へ戻るのだろう。
と、思ったら、トントントンと階段を降りてくる音が聞こえてきて、ガチャッと食卓の扉が開いた。
「あ!こんなところにいた!」
ラズリーが扉を開くなり、そんなことを言う。後ろにはソフィアの姿も見えた。
「―なんだ、何か用か?」
俺は紅茶を一口飲んで、答える。
「・・・特に用はないのだけれど・・・。」
もじもじするラズリー。
「お嬢様、私たちもお茶を頂きませんか?」
ソフィアがそんな提案をラズリーにする。
「そうね、イシュバーン、私たちもお茶を頂けないかしら?」
ラズリーから要求されると立場的に断りづらい。
―このメイド、考えてやがる
「―まったく、俺はいつお前たちの召使になったというのか。」
俺は重い腰を上げ、二人分のカップを用意し、再び湯を沸かすことにする。
「・・・ねえ、イシュバーン。ランクマッチのことなんだけれど。」
「ランクマッチがどうした?」
二人の紅茶の準備をしながらラズリーに答える。
「ええ。それがね、魔法学院エルディスにとても強力な魔法使いがいるらしいの。」
「強力な魔法使い?」
―そんな奴いたっけ?
原作ではどんな敵があろうともハーヴェルの敵ではなかった。
確かに、魔法学院エルディスには、ある程度使える魔法使いがやっかいだったという記憶はある。だが、ハーヴェルを苦しめるほどの敵かと言われれば、ノーである。
「どういうやつか知っているのか?」
俺は二人に紅茶を淹れながら、ラズリーに言う。
「私も知らないわ。でも、アウグスタがそんなことを言っていたのよね。」
「アウグスタがねえ。」
アウグスタは男であり、ハーヴェルのハーレム要員ではないので、アウグスタについてはほとんど知らない。ゲームではゴーレムを操作するような描写があったくらいだ。
「アウグスタって、どんなやつだっけか?」
そもそもゴーレムを使うくらいしか知らない。
「―アウグスタ様はエデルフィム家の直系の跡取りです。」
ここでソフィアが口を開いた。
「つまり、ソフィアはアウグスタの―」
「・・・はい、腹違いの妹になります。」
―今、明かされる衝撃の事実。
ソフィアもある程度戦えるようだったが、エデルフィム家というのはかなり優秀なのだろうか?
「エデルフィム家とはかなり優秀だったのだな。」
正直、知らなかった。
「―そうね。派閥的に色々あるみたい。」
ラズリーがソフィアに代わって答える。
「ん?エデルフィム家はテレジア家の派閥ではないのか?」
テレジア家の派閥であるのならば、そんな答えにはならないはずだ。
「・・・エデルフィム家はバルモン家の派閥なのです。」
ソフィアが言いにくそうにする。
―バルモン家。バルモン家とは、確かあのグラウスの実家の公爵家だったはずだ。
ゲームには名前しか出てこないので、これについても俺はほとんど情報を持っていない。
もしかすると、このランクマッチにも何かあるのかもしれない。
「―全く、貴族というやつは色々と面倒事が多い。嫌になるよな?」
そう言って俺は二人を見る。
すると、二人は互いに顔を見合わせ、
「・・・私は、イシュバーン様ほど気楽に貴族をやっている方を見たことがありません。」
そんなソフィアの言葉に大きくうんうんと頷くラズリーだった。




