2話
セバスに連れられ、しょんぼり我が家を出て行く親父を皆で見送った後。
「ねえ、イシュバーン、貴方も変わっているけれど、貴方のお父様も随分と。その、変わってらっしゃるわね?」
ラズリーが遠慮がちに聞いてくる。
「そうだな。うちでまともなのはセバスや使用人くらいのものだ。ヘイム家は全員どこか頭がおかしい。」
俺はうんうんと頷く。
「イシュバーン様、その言い方ですと、イシュバーン様もその変わっている方の中に入ってしまうのではないでしょうか?」
ソフィアがそんなことを言う。
―このお嬢さんも段々と俺に遠慮がなくなってきたな?
「―まあ、自分で言うのも何だが、俺も一応はヘイム家の人間ではあるからな。貴族としての立場や地位を除けば。」
「そうそう! 今度、魔法学院どうしのランクマッチがあるのよ?私も参加することになりそうなの。」
ラズリーが思い出したようにそんなことを言う。
「ああ、確か、そんなことを言っていたな?アルトリウスに勝てる魔法学院などないと思うが。」
これは本当に俺の率直な意見である。
「そうね・・・。でも他の学院にも強力な魔法使いがいるみたいなのよ。」
「―お嬢様、それはアルトリウスに通う学院生よりも強い魔法使いがいるという意味ですか?」
ソフィアが少し驚いたような顔をする。
「分からないわ。いつも通り、蓋を開けてみればうちの勝ち、みたいなことになるかもしれないけれど。」
原作ではアルトリウスの圧勝だった気がするな。原作の参加メンバーは、ハーヴェル、アウグスタ、レティ、ヒューヴァだ。原作ではラズリーが生贄に捧げられてしまうので、代わりヒューヴァが抜擢された。それでもアルトリウスの無双状態だったはずだ。
そして、今はヒューヴァよりも随分と強力な魔法使いであるラズリーも健在であり、もはやアルトリウスの優位性は動かないといえる。
・・・ちなみに、イシュバーンは原作も今も、相も変わらず蚊帳の外である。
「そうです、そのことでイシュバーン様にご連絡することがありました。」
何やらソフィアが不穏なことを言い出す。
「・・・何だ、ソフィア。そのご連絡とやらは。」
「はい。イシュバーン様がラズリー様の護衛についた以上、今回の学院対抗のランクマッチにはイシュバーン様も付き添ってもらうことになりそうです。」
仕事の依頼だった。
―すっかり忘れていた。
そういえば、俺はラズリーの護衛をする約束だった。
「・・・そういえばそんな話もあったな。」
「―イシュバーン、忘れていたとは言わせないわよ?」
ラズリーがジトっとした目で見てくる。
「も、もちろん覚えているぞ?」
「イシュバーン様、このソフィアもラズリー様に付き添うつもりですので、お互い頑張りましょう。」
「お、おう。」
よく考えてみれば俺のポーションもそろそろ尽きようとしている。それに一張羅の服を買うことも必要だろう。何よりもまだラズリーが安全である保障はどこにもない。
「ラズリー、そのランクマッチはいつなんだ?」
ランクマッチは長期休暇中のイベントであることは覚えているが、具体的な日付は知らない。
「ええと、講義が始まる少し前だから―。十日後くらいだったかしら、ソフィー?」
「ええ、お嬢様。」
―あれ?つまりは長期休暇も残すところあと十日程度しかないのか?
あんなに長い時間あると思っていたのに??
「君はそれまで何をするんだ?」
「何って、私は魔法の勉強よ?休み明けにちょうど試験があるじゃない。」
―シケン。シケンって試験か。
「・・・試験か。」
もちろん、対策らしい対策は何もしていない。
「イシュバーン、貴方まさか何の対策もしていないの?」
「・・・その通りだ、ラズリー。」
俺はラズリーを見つめる。
「――そんなに見ちゃいやよ。」
顔を赤らめるラズリー。
「―イシュバーン様。ごまかそうとしていませんか?」
ソフィアの冷静な突っ込みが入る。
―余計な真似を!!!
「――イシュバーン、あなた・・・!」
ラズリーがおこである。
「大丈夫だ、ラズリー。俺にはルディという心の友がいるのでな。」
「ルディってあの?いつも貴方といる男の子よね?」
「そうだ。我が心の友だ。」
―もっとも、ルディは頑なに認めようとはしないがな。




