20話
「ラズリー、ソフィア、飯にしよう。」
俺は二人のいる部屋のドアを開け、二人に声をかける。
すると、二人は物珍しそうに洋服のしまってあるタンスの洋服を見ているようだ。
「むやみやたらに人の家のタンスを開けたりするのはやめておいた方がいいと思うぞ?」
何をやっているんだという表情で二人を見る。
「―ごめんなさい、でもこれって。」
そう言うと、ラズリーは公爵家の紋様入りのドレスをこちらに見せた。その紋章は、三つの菱形が描かれている盾の紋様である。これはテレジア家を表すものだ。
―これはおそらくリーナの物だろう
この部屋のタンスの中の洋服を検分するようなことはしていなかったが、きっとその中にあるのはリーナの洋服だと思っていた。
「イシュバーン様、これはどういうことなのでしょう?」
ソフィアもこれについて疑問に思うらしい。
「・・・俺も詳しくは知らん。この館の所有者は俺の爺さんだったのでな。まずは飯にしよう。」
「え、ええ。」
困惑した表情をするラズリー。
そうして俺は二人を食卓に案内する。
「今日の飯は・・・なんとボアのステーキだ!」
そう言うと、じゃじゃん、とバスケットの中から肉とパンとスープを三人分配膳する。
「ボアのステーキなら食べたことあるけれど・・・。」
俺がテンション高めに言ったせいで、少し困惑した表情をラズリーが浮かべる。
「イシュバーン様、これは普通のボアとは違うのでしょうか?」
ソフィアがそんなことを聞いてくる。
「いや、普通のボアだ。」
しかも俺が取ってきたその辺にいる野生のボアである。
―だが、食うと市場に出回っているボアとは味が全然違う。野生のボアを二人は食べたことがあるのだろうか?
「まあ、食ってみろ。」
軽くいただきますと言ってから、ひょいひょいと口に運ぶ。
―やっぱり美味い!
「「天におられる女神アーレインの恵みに感謝致します。」」
二人はそう言って食べ始める。
「ん!これおいしい!」
ラズリーが言う。
「本当です。これは本当にボアのお肉なのですか?」
ソフィアがこちらに聞いてくる。
「ああ、どこにでもいるボアの肉だ。何なら俺が今日森で取ってきた。」
そう言ってガッツポーズをしてみる。
「取れたてのお肉ってこんなに美味しいんだ・・・。」
ラズリーが感心した様子だ。
「こちらのパンとスープも特別なものなのですか?」
ソフィアが俺に聞く。
「おそらくはな? 料理長に聞いてみないと分からないが、少なくとも俺が取ってきたボアの肉よりかは特別なものだと思うぞ?」
俺はソフィアに答える。
「ソフィア、きっとパンもスープも上等なものに違いないわ。」
「ええ、お嬢様。」
ちなみに今日の食事はいつも俺が食べる味気ない飯とは全く違う。
パンもスープもおそらくソフィアの言う通り上等なものだ。きっとセバスがロドリゴに言ってそうさせたのだろう。
「あの、イシュバーン様。先ほどのいただきますというのはどういう意味なのでしょうか?」
ソフィアが気になったようだ。
「いただきます?」
ラズリーはあまり気にしていなかったらしい。
「お前たちの言う女神への感謝を省略するとそうなる。俺の習慣のようなものだ。」
実際には違うが、まあ似たようなものだろう。
「イシュバーン、女神様への感謝をそんな風に略すなんて。だめよ、そんな。」
ラズリーがそんなことを言う。その辺はとても貴族らしいと思う。
「お前も魔法の詠唱を省略するじゃあないか。同じことだ。」
「―まったく、そうやっていっつもああ言えばこう言う。」
呆れたように言うラズリー。
そんな様子を見てソフィアは苦笑するのだった。
「・・・ねえ、イシュバーン、貴方のお爺様って。」
食事もある程度進んできたとき、ラズリーがぽつりと呟く。
―ああ、その話になるのか。
「名をイシュゼルという。詳しくは俺も知らん。だが、どうやら公爵家のご令嬢と恋仲にあったらしい。」
「お嬢様、それって・・・。」
「―ええそうね。きっとリーナ姫のことね。」
そんなとき。
ジリリリッ
玄関のベルが鳴った。
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