18話
―そわそわする。
鍛錬室で鍛錬でもしようと思っていたが、全く集中できない。
「・・・鍛錬どころの話ではないな。」
例えば、調度品に埃が溜まっていないかとか、風呂の掃除は問題ないかとか、泊る部屋は掃除されているかとか。
――館の掃除をするか。
確か、この館を初めに掃除したときに使用した道具一式を、庭の物入れに入れたっきりのはずだ。
俺はそのまま庭に行き、物入れから道具を取り出す。
館には水道が引かれているが、庭にはちょっとした井戸がある。この井戸は飲み水には使用できないが、掃除に使う分にはちょうどいい。
俺は井戸からバケツに水を汲み、それを玄関にまずは運ぶ。そして、もう一度庭に戻り今度は掃除用具を玄関にまで戻る。
こうして雑巾、ほうき、ちりとり、水の入ったバケツを用意し、まずは棚の上や窓枠などを雑巾で掃除していく。
「―メイドが朝からせわしなく動いている理由がよく分かるな。」
こうやって掃除していると意外にも汚れがたまっているものだ。
俺は一階の調度品から上の階にかけて順番に拭いて行く。
一通り拭き終えると、次は館の床掃除である。
これはほうきを使って掃除していく。廊下の床をほうきを使ってどんどん掃いていく。
―窓を開けるのを忘れていたな。
俺は一階の廊下の窓を全て開け放つ。そして、一階の廊下を掃除したら、次は二階の廊下の窓を全て開け放って、今度は二階の床をほうきで掃いていく。
廊下を掃除したら、それぞれの部屋だ。
まずはラズリーとソフィアにあてがう予定の部屋を特に丹念に掃除しよう。この部屋は土足禁止の絨毯のある部屋で調度品も女性用のものが揃っている。以前ラズリーとセフィリアが来たときにあてがった部屋もこの部屋だ。この部屋以外は、彼女たちが使用することはないと思うので、この部屋に全力をかけるべきだろう。
―シーツがそのままだった。
俺は急いでシーツを二つ持って別邸に向かう。
別邸の玄関を開けると、せわしなく動いているメイドを見つけると、
「―すまないが、このシーツを二つ替えてもらえないか?」
「シーツですか?・・・少々お待ちください。」
するとメイドはリネン室のある方へ向かって、新しいシーツを持って再び戻って来る。
「―お待たせ致しました。こちら洗濯済みのシーツです。そちらのシーツはこちらで洗濯されますか?」
そう言うと、新しいシーツをこちらへ手渡してくる。
「悪いな、頼めるか?」
俺は持っていたシーツをメイドに手渡す。
「ええ、問題ありません。―それでは失礼致します。」
メイドは一礼して去っていく。
俺はメイドからシーツを受け取ると急いで館に戻る。シーツを換えるのは部屋の掃除をした最後にするか。
布団は干す!幸いまだ夕暮れまでは少しだけ時間がある。この時間だけでも布団は干しておくべきだ。
庭にある物干しに布団をかけてから、俺は女性用の部屋に戻ると、食器や女性ものの着替えの入った棚を念入りに拭いていく。
調度品の掃除が終われば、次は絨毯の掃除である。ほうきを使ってこれも隅から隅まで掃除をしていく。
この部屋をかつて誰が使用していたのか今の俺には分かる。この化粧台も、棚にある下着や着替えも随分と上等のもののように見える。
「―ふう。」
ジリリリッ
玄関のベルが鳴るのが聞こえた。
「―まさかもう来たのか!?」
俺は慌てて玄関へ行くと、そこにいたのはセバスだった。
「―なんだ、セバスか。」
「坊ちゃん、随分と慌てているご様子ですが、何か手伝いましょうか?」
「いや、問題ない。」
「本日どなたかご来訪されるのでしょうか?」
―セバスには伝えておく必要があるかもしれない。
「―公爵令嬢だ。」
「なんと・・・!」
そうしてセバスは少し考え込むようにして、
「・・・やはり血は争えませぬな。」
そんなことを言うのだった。




