17話
その後すぐ、俺はボアを取りに森に来た。
―こんなにもボアを求めたことはないな。
俺は森に到着するや否や直ちに魔眼を使用する。
―いた!ありがてえ!!
もはや、ボア様様である。
「天に住まうイシュヴァルの神よ、その名において我は命じる。唸れ!サンダーボルト!」
バチバチッ
サンダーボルトに命中し、倒れたボアを担いでいつもの川に行き、血抜きをする。
俺は森を出ようとしたとき。
―待て
―この声は。どこだ?どこかにいるはずだ
魔眼を使ってみると、少し離れた位置に巨大な白蛇の姿が見えた。相変わらず神出鬼没である。しかも、これ魔眼を使って見ないと森の景色に完全に溶け込んでいないか?
―お主、闘気が使えるのだろう?
蛇は大きな口を開けて、いつか見た大きな丸い岩を吐き出す。
―素手で打ち砕いてみせよ
「・・・これを素手で、か。」
―これが弾くは魔法のみ。物理的な力に対しては通常の岩と強度は変わらぬ。・・・用事は以上だ。急いでいるのだろう?
そして、いつの間にかその気配がかき消えていた。
「だが、鍛錬について考えることは後だ。」
今はこのボアを調理室まで運ぶことが先である。俺はボアをさっさと離れにまで運び込むことにする。
一旦離れにボアを置き、俺は別邸の方に行く。
別邸のドアを開け、メイドの視線をよそにそのまま執事室まで向かう。
コンコン
ノックだけして返事も待たずに執事室の扉を開ける。
「セバス、ボアを獲ってきた。離れに取りに来てくれないか?」
「―坊ちゃん、また急ですね?どうかしたのですか?」
セバスは机に向かって何か作業をしていたようだ。おそらく事務関係だろう。セバスはそういった仕事も俺の親父に代わってやっている。
「ああ、ちょっとな。―イシュトと親父の姿が見えないが?またどこかへ出かけているのか?」
「ええ、ローズ様をお迎えにメドゥイット家に行っていますよ。」
「であれば、わざわざセバスに来てもらう必要もないな。俺が直接持ってこよう。」
「―いえ。坊ちゃんのお手を煩わせてしまうわけにはいかないでしょう。私もちょうど肩が凝ってきたところでした。」
「分かった。好きにしてくれ。」
そう言って俺とセバスは離れの館に向かうことにする。
別邸から離れに向かうその途中。
「なあ、セバス。あの森やダンジョンが初心者向けとは誰に聞いたのだ?」
俺は気になっていたことをセバスに確認することにする。
「ああ、あれはイシュゼル様ですよ。」
―どおりで。やつにとってはあのレベルで初心者向けか。
「なるほどな・・・。確かに奴にとってはあれは初心者向けだったのかもしれないな。」
俺は呟く。
「―坊ちゃん、坊ちゃんはイシュゼル様のことを誰から??」
セバスは驚いた様子でこちらに訊ねる。
「あ、ああ、いや風の噂でな。」
そういえば俺とイシュゼルが実際に会うことは時系列的にできないはずだ。
―時空でも歪まない限りは
「―そうですか。私はイシュゼル様ほどの強者を他に見たことがありません。」
セバスはそのように断言する。
そして、離れに到着するとセバスはボアをひょいと担いで、
「それでは、こちらは私が調理室に運んでおきます。」
そう言って別邸の方へ戻って行った。
俺はその姿を見て違和感を抱く。
―あのように軽々とボアを持つことは、意識的に身体を鍛えておかなければできないはずだ
よく考えると、俺はセバスについてほとんど知らない。
今の今までうちの単なる執事と思っていたが、あれは単なる執事にはできない芸当だ。
―そもそも、あいつはいつからうちの執事をやっているのだろうか?
それくらいは本人に直接聞くのが良いだろう。しかし何となくセバスは、はぐらかして答えるような気がするのだった。




