15話
ここは前回の場所に比べて随分と深い場所だ。
――そして、今回は囲まれている。十匹は軽く超えているか
「手を抜かんぞ。―悪く思うなよ。」
「グルルルルッ・・・ゴルアッ」
うち一匹が飛び掛かって来た!
俺は電撃を飛ばす!
―バチンッ
「ギャンッ」
高圧の電撃が直撃し、その肉が弾け飛ぶ!
―まだだ。向こうも本気だ。
「ゴルルウ・・・グガアッ」「グゴオッ」「ガフガフガフッ」
大きな口を開けて一斉に襲い掛かってくる!!
俺はその場に留まり、集中した魔力を放出する!!!
バチンッ!バチンバチンッッ!!!
獣が焼ける嫌な臭いが辺りに漂い、肉の焼ける音がする。
―まだ残っているか。
しかし、向こうも引く気はないらしい。
「ウォーーーーーーン!!!!」
―遠吠え!?こんな所でか!?
「―させるか!」
俺はすかさず電撃を放出する!!
「ギャンッ!!」
残りのウルフに電撃が直撃し、黒焦げにする!
さらにウルフが続々と集まって来る。
―まるで総力戦だ。
さらに手に魔力を集中する。
「ガウガウッ!」「ゴワアッ!!」
嚙みついてくる大きな口を回避し、
―ズンッ ―ズンッ
突きを放ち、ウルフをはじき飛ばす!!
手が獣の血で濡れる。
「―まだだ」
さらに集中していた魔力を電撃に変換し、一気に放出する!!!
ズガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ!!!!!
いくつかのウルフの悲鳴が聞こえるが、大半は悲鳴を上げる暇さえなく黒焦げになっていく。
――残り一匹
俺はそのウルフには見覚えがあった。
そいつは、少し逡巡する様子をみせ、しかし俺を嚙み殺そうとする決断をした。
「グルアッ!!!」
狙いは俺の喉元!!!
―いい一撃だ。だが
――ズバッッ!!!
その腹を手で貫く。そいつは俺の手に貫かれ、完全に動かなくなった。
最後は逃げずに挑んでくることを選択したのだ。
「―許せ。」
俺はウルフから手を引き抜く。
魔眼を使うが、どうやら集まって来た全てのウルフを殲滅したようだ。
「――ふう。」
汗をぬぐい、ため息を一つ。
―ん??
おかしなことにまだ魔力がわずかに残っていることに気が付く。
「―これだけ魔力を使えば枯渇していてもおかしくはないと思うが。」
俺の魔力量からするとかなり奇妙である。
―まあいいか。マナポーションの節約にもなったしな
「・・・帰るか。」
まだ戦うことはできるが、無理をする必要はない。
持って来ていた保存食を一口噛み、俺は洞窟から離れの館に戻ることにした。
「―しかし、あの森も洞窟も初心者向けと聞いたが、全くそんなことはないな?」
洞窟から戻って来る道中、俺は独り言を言う。
―誰が初心者向けと言ったのだったか?
「・・・セバスか。」
今度文句の一つでも言ってやろう。
そんなことをぶつぶつ一人で言いながら、来た道を戻って行く。
離れに戻って来たときにはすっかり日が暮れようとしていた。
館に戻って来ると、館の前でちょうどメイドがバスケットを持って待っていた。
「お待ちしておりました、イシュバーン様。こちらお夕食になります。」
そう言うとメイドが今日の分の夕食を渡してくる。
「ああ、すまないな。」
俺はメイドに簡単に礼を言う。
「―それでは私はこれで失礼します。」
そう言うと、メイドは一礼をし、別邸に戻って行った。
俺は食卓に行き、飯を食うことにする。
ダンジョンを一人で探索するのはかなりキツイと思っていたが、やってみると案外先の方まで進むことができた。
とはいえ、あのダンジョンもまだまだ先に続いていそうだ。
―どこまで探索するべきだろうか?
今回の探索の目的はダンジョンに慣れることである。決してダンジョンを攻略することではない。
しかし、マナポーションさえあれば、まだまだ先に進むことはできそうな感覚はある。妙なカタツムリの集団も、ウルフの集団も実際対処することに問題はない。
―だが、深入りしすぎると強敵が出ないとも限らないんだよな
実際森でフレイムサラマンダーと遭遇したときには、かなり危うかった。あれは偶々(たまたま)あの雷があったから助かったようなもので、今もう一度戦闘するとしても逃げるしかないだろう。
同様に、あのダンジョンの奥でも今の俺では敵わない強敵に遭遇する可能性が高い。
―だが、臆していて得られるものはないということも事実か
他方で、強敵を乗り越えることでかなりの強さを得られることを経験している。恐れているばかりではスローライフなど夢のまた夢。おまけにハーヴェルやそのハーレムはどんどん実力を付けていくのだ。
―魔眼を慎重に使っていけばもう少し先まで進めるか?
俺は今後のダンジョン探索の方針について、飯を食べながら考えるのだった。




