10話
今日も俺は訓練を行う。休日の時間は貴重だ。
今日用意したマナポーション、その数20個!煌びやかな服や宝石のついた剣など、そういった実用性に欠ける俺の持ち物はできるだけ売り払うようにしている。
まだまだマナポーションを購入する余力はあるものの、模擬戦までの時間はほとんどない。
そのかいもあり、少しずつコントロールできるようになってきた。
「―ジンライ」
バリッ
自身の身体が、ふわりと、浮き上がるような感覚が続く。
―数秒後
ガクッ。
これはいつも通りだ。
もう一度だ。
「ジンライ」
バリッ
自身の身体が、ふわりと、浮き上がるような感覚。
その感覚が続いている間に体を動かしてみると―
ビュン!
だが、距離と方向がずれている。
そう、「ジンライ」を繰り返し鍛錬することで、少しずつ移動する距離と方向が定まって来た。
だが、それでも俺が模擬戦で俺が目指しているものとはまだまだ遠い。
射程ギリギリまで移動し、回避するのだ。
そのためには、距離と方向の精度をまだまだ高める必要がある。
「ふぅー。」
ジンライを使用した後の魔力の欠乏する感覚も最初に比べれば、軽い気がする。
―このジンライという魔法もどきは、鍛えれば鍛えるほど、使い勝手がよくなるのかもしれない。
マナポーションを飲んでしばらくコンディションを整えていると、ふいに、
ガサゴソという音が聞こえ、そこから
ボアが飛び出して来た!
今から俺はちょうど地面にあぐらをかいている状況だ。避けきれない!
咄嗟に俺は唱える!
「―ジンライ!」
ビュンっと俺の身体が移動し、瞬時に戦闘態勢に入る。
その横をボアが突っ込んでいく。
なに!?
身体が瞬時に移動しただけでなく、その後戦闘態勢に入るまでも短かった。
要するに、このジンライ、同じ姿勢で移動するだけではなく、移動中に体を動かすことができるらしい。
―ゾクゾクする。
これを利用すれば、古武術を使用した高速格闘術が可能である。
これでセフィリアの悲劇的なイベントを乗り越えることができるかもしれない。
もちろん、先ほどの移動は精度も低く、ボアを避けることはできたが、あれでは格闘術があらぬ方向に放たれることは明らかである。
―もっと精度を鍛えねば。
「―誕生会?」
「ああ。今度、ヒューヴァのところでやるらしい。」
いつもの屋上で、ルディがサンドウィッチを食べながら俺に話しかけてくる。
ヒューヴァというのは侯爵家の息子で、俺たちの同級生である。いわゆるイケメンというやつで、女に人気があった。
「まったく、この学院は面倒な貴族ばかりで嫌になるな。」
「・・・ヒューヴァもお前には言われたくないと思うぞ。」
ルディが呆れたように言う。
「ルディも参加するのか?」
「ああ、うちは子爵だが、ヒューヴァの家はここから近いし、行くよ。相手は上級貴族だぜ?」
ちなみに、俺もそういう意味では上級貴族だが、学院では上級貴族として扱われることはほとんどない。
「ちなみに、俺もそういう意味では、ルディより上級貴族あたるが。」
「そうそう、みんなほとんど忘れているけど、そうなんだよな。」
他の貴族からはチンピラやゴロツキの類で見られていることが多いのだ。
「まあ、俺の心の友はルディだけでよい。」
「不本意すぎる・・・。」
「貴様、言いおったな?それぃ!」
と言って俺はやつのサンドウィッチを1つ奪い取った。
「あー!俺の!最後に楽しみにしてとっておいたやつなのに!!」
「ふっ。さっさと食わんのが悪いのだ。」
と言って、パクっと一口。
「ああ、俺のフルーツミックスサンドが・・・。」
―招待状ねえ。
多分ヒューヴァの野郎は俺には招待状を送ってこないだろうな。
原作では、ヒューヴァはアイリスが好きだったんだっけ?
色恋沙汰よりも、俺は先の模擬戦の準備を優先したいのだ。
確か、ヒューヴァの野郎はイシュトにのみ招待状を送付しているはずだ。原作ではそれを知ったイシュバーンがヒューヴァに食ってかかるシーンがあるが、そんなことをするつもりはさらさらない。俺はそんなに暇ではないのだ。
そうして、その日もまた、森へ向かうのだった。