1話
「おい、起きろ。イシュバーン。」
「あん?何だ?」
ここはどこだ?
何だ?どこだここ?学校か?
なんでこんなところにいる?
「ハーヴェルの野郎に痛い思いをさせにいくんだろう?」
―ハーヴェルとは誰だ?いや、聞き覚えがあるぞ。
ハーヴェル。ハーヴェルとは、ゲーム:「魔法王国エルドリア」の主人公ではないか。
イシュバーン!?イシュバーンとは、序盤の典型的な悪役。
雷属性の魔法を得意とし、ハーヴェルの敵として立ちはだかる―というのもおこがましい雑魚だ。
イシュバーンは侯爵家の息子だ。対して、ハーヴェルは平民の子。
しかし、ハーヴェルは後に勇者として覚醒し、魔王の四天王を打ち倒すまでに至る。
イシュバーンとハーヴェルは互いに魔法学院アルトリウスの生徒であるが、イシュバーンはハーヴェルの才能を妬み、事あるごとに、平民であるハーヴェルに難癖をつけていた。
俺の知る限り、イシュバーンの性格は最悪である。
イシュバーンには婚約者がいたが、婚約者であるアイリスには嫌われていた。
イシュバーンはアイリスを手籠めにし、あろうことか、ハーヴェルの幼馴染にまで手を出そうとした。そしてハーヴェルによって「ざまぁ」されてしまうのである。
―今俺の横にいるのはルディか。どうやら、俺は急に前世とやらを思い出し、混乱しているようだ。
ルディはイシュバーンのチンピラ仲間である。
「いや、今日はやめておこう。気分が乗らない。」
「おいおい、お前が言い出したんじゃないか。」
「ああ、すまないな。少し急用を思い出したんだ。」
そう言って俺は家に戻るのである。
ちなみに、イシュバーンは屋敷のメイドにも悪態をつきまくっていた。
俺は屋敷に戻ると、さっさと自室に向かう。
「ふう。」
―なんてこった。このままいけばハーヴェルに「ざまぁ」されてしまうではないか!
なんとか回避しなくては!
だが、ルディとハーヴェルに難癖をつけるイベントは、高等部1年のイベントだったはずだ。
そして今は、時期的に魔法学院アルトリウスに入学したてのころだろう。
幸いなことに、まだ最初の「ざまぁ」までには十分に時間がある。
とにかくハーヴェルと、そのハーレム要員である女には極力近づかないようにしなければなるまい。
翌朝。
「おい、イシュバーン。今日こそハーヴェルをぶっ叩きに行こうぜ。」
ルディが話しかけてくる。
「ルディ、もうハーヴェルは飽きたんだ。」
「あん?何だ、イシュバーン、怖気づいたのか?」
「いや、そうではない。お互いいい大人なんだ。そろそろ成長しないか、俺たち。」
俺はぶっきらぼうに言う。
「イシュバーン、いつからお前はそんなおっさんになってしまったんだ?」
ルディが驚いた眼で見る。
ルディは、実はいいやつなんだが、いかんせん、イシュバーンがどうしようもない奴である。
「いや、そうだな、ルディ。俺は人生に疲れてしまったんだ。」
「イシュバーン・・・。」
ルディが涙を浮かべて俺を見る。やめろ、ルディ。俺にそんな趣味はない。
「あなたたちまた何か嫌なこと考えているでしょ。」
そう話しかけて来たのは、クラスメイトであり、俺の幼馴染でもあるプリムである。
「あん?女は黙ってろ。」
ルディがプリムを睨みつける。
「やめろ、ルディ。プリムが怖がっている。」
女の子をいじめるのはだめです。
「イシュバーン、おまえ本当にどうしちまったんだ?」
見ると、プリムまでもが俺を驚いた目で見ている。
プリムは伯爵家の次女で、俺とは長い付き合いになる。
以前は俺に惚れていたこともあるようだが、今ではめっきり俺を嫌っていることを知っている。
「行くぞ、ルディ。」
俺はそう言ってその場から離れる。
「おい、待てよ、イシュバーン!」
新作です!定期更新していますので、しおり代わりにブクマ推奨です!