第八話「反撃の狼煙」
後半開始。
0-1でリードを許したまま、朝日南高校サッカー部はピッチに戻ってきた。だが、彼らの目に迷いはなかった。
「読み切ったぞ。武蔵野学院は、3分30秒ごとにフォーメーションを切り替えている。理由は単純。全員の心拍数と体力管理に合わせて、ポジション負荷を分散しているからだ」
熊田の隣に立つのは、PC片手に戦況を分析する宮本、元将棋部部長。
彼の言葉に、部員たちは真剣な表情で頷いた。
「しかも、ローテーション直前の30秒間は、全体の布陣が一瞬だけ不安定になる。そこを突くんだ!」
「つまり……その“30秒間”を、筋肉でぶち抜くってことか!」
翼の目が光る。
試合再開。武蔵野学院は、変わらず精密機械のようにパスを回し、主導権を握る。
だが、朝日南は冷静だった。
「次の切り替えは……あと10秒!」
宮本がスタンドから叫ぶ。
「いまだ、いけぇえええッ!」
ドオオォン!
鉄之介がセンターサークル付近から全力スプリント。
対峙したCBを、合法的に体で押し込み、ボールを奪う。
「翼、前へ!」
翼がそのままドリブル。DFが慌てて寄るが、すでに形は崩れている。
「赤木、受けろッ!」
「まかせた!」
横パスを受けた赤木が、ダイレクトでゴール右隅に蹴り込む!
――ゴール!
1-1!
観客席がどよめく。武蔵野学院の選手たちが動揺しているのが分かる。
「まさか、ウチらのリズムを……読まれてる?」
その言葉を、壬生京一は無言でかみしめた。
想定外だった。筋肉戦術はただの奇策だと侮っていた――が、違う。
戦略+筋肉+冷静な“読み”=制御された暴力
それが、朝日南の新たな形だった。
──残り15分。
流れは完全に朝日南。鉄之介を基点にしながら、ボールを前へ運ぶ。
宮本が、また手を挙げた。
「次のタイミング、あと20秒!」
熊田がベンチから叫ぶ。
「フォーメーション“押し相撲”だァッ!」
「押し相撲!?」
全員が最前線へ押し出す陣形に切り替え、前線でパワープレイ。
まさかの“ハーフラインからのライン押し上げ”が功を奏し、ゴール前で混戦!
ボールがこぼれた先にいたのは、翼。
「いっけぇぇぇぇ!」
ゴォオオオオル!
2-1!逆転!
試合終了のホイッスルが鳴ると、朝日南ベンチは歓喜に包まれた。
だが、壬生は最後まで視線を逸らさなかった。
「……おもしれぇな、お前ら」
その目には、敗北の悔しさと、ライバルへの敬意があった。
帰りのバス。熊田がポツリと言った。
「次は、決勝だな」
赤木が笑った。
「さあ、“第3段階”は何が来るんだ、監督?」
熊田は、にやりと笑う。
「……“空中戦”だ」




