第六話「最終兵器、登場!」
秋の風が吹き始めた十月初旬。
朝日南高校サッカー部は、ついに公式戦――全国大会・地区予選の初戦を迎えていた。
会場のスタジアムに、部員たちの緊張が漂う。
「いよいよ本番か……」
「勝ったら、県大会進出が見えてくる……!」
相手は、昨年の地区ベスト4、鏑木高校。
高い守備力と組織力を誇る、手堅いチームとして知られていた。
「筋肉戦術、通じるかな……」
不安がよぎる部員たちをよそに、熊田監督はというと、奇妙な紙袋を抱えてベンチに座っていた。
「なあ、監督……それ、何入ってるんです?」
赤木が恐る恐る尋ねると、熊田はニヤリと笑った。
「ふっふっふ……これは“最終兵器”だ。お前ら、後半に驚くなよ?」
全員の脳裏に一瞬、“爆弾”という言葉がよぎったが、あえて誰も突っ込まなかった。
──前半開始。
鏑木高校は、噂通りの堅守速攻型。守りを固め、数人で囲んでから一気に攻め上がる。
対する朝日南は、例の“トライアングル包囲戦術”とロングスローで対抗するも――
「……突破できねぇ」
「筋肉のぶつかり合いで、逆に持たされてる……!」
点を取らせずとも、点も取れず。前半終了、0-0。
選手たちがベンチに戻ると、熊田がニヤニヤしながら言った。
「──よし、投入するぞ。“最終兵器”をな」
そう言って紙袋から取り出されたのは、一人の選手だった。
「えっ、人!?」
中から現れたのは、身長190cm・体重100kgを超える巨漢。
だが、どこか柔らかな表情と、異常に屈強な太もも。
「紹介しよう。元ラグビー日本代表ユースの五十嵐鉄之介。今年、うちの定時制に編入してきた“二年生”だ」
「え、あの鉄之介!? 高校ラグビー界の破壊神って言われてた……」
「こいつ、実はサッカー経験もある。ラグビー引退後、キーパー志望で来たんだが……」
熊田は言った。
「今日からこいつは、フォワードで出る」
「いやキーパーちゃうんかい!!」
選手たちが総ツッコミを入れる中、鉄之介は黙ってボールを手に取った。
そして、リフティングを始めた。
「うまっ……!?」
「190cm、100kgが、こんな柔らかく足元使えるなんて……!」
後半、キックオフ。
フィールドに放たれた“鉄之介”は、もはや戦車だった。
「うおおっ!止めろ、こいつを止め――うぐぁっ!」
「タックルか!?いや、合法スライディング!?」
鏑木高校のDFを次々となぎ倒し、鉄之介はペナルティエリアへ突入。
最後は、シュート……ではなく、味方へのノールックパス!
「翼、決めろぉぉ!」
「ラジャァァア!!」
ドゴォンッ!
ゴールネットが揺れ、ついに先制点!
試合終了間際、鉄之介のアシストで赤木が追加点。
試合は2-0で朝日南の勝利。
部員たちは、試合後も鉄之介の肉体美にざわざわし続けた。
「……これが、うちの“最終兵器”だ」
熊田は胸を張って言った。
「筋肉も戦術も、限界を超えてこそ、勝利を呼ぶ!」




