第三話「フィジカルだけで勝てるのか?」
朝日南高校サッカー部の“地獄の筋トレ週間”が始まってから、すでに十日が過ぎていた。
部員たちは、口では文句を言いながらも――少しずつ、身体が変わっていく実感を得ていた。
「なあ、オレ腕立て連続で50回できるようになったんだけど」
「太ももパンパンすぎて、スキニーパンツ入らなくなったわ…」
「監督、これってサッカーに関係ありますか?」
熊田は一言。
「ある。フィジカルで全てをねじ伏せるんだ」
意味は不明だが、気迫だけはすごかった。
──
そして、ある日の練習終わり。
熊田はいつも通りの鬼軍曹スタイルで、グラウンド中央に立ち、宣言した。
「明日、練習試合をやる!」
「マジで!?」
部員たちは思わず声を上げた。
ボールに触れるのは初日以来だ。
ついに、自分たちが“サッカー部”だったことを思い出す。
「相手は、隣町の翠陽高校。Bチームだが、うちの10倍はサッカーしてるぞ」
緊張が走る。筋肉では勝てても、技術は圧倒的に負けているはずだ。
──
そして翌日、試合開始。
「こっちが朝日南か……全員、ムキムキじゃね?」
「なんだあれ、マネージャーまで筋肉痛いって言ってるぞ……」
相手チームは呆れたように笑った。
しかし、試合開始3分。事態は一変する。
──ドスン!!
「うっ……!」
翠陽のMFが、ボールを奪おうと突っ込んだ瞬間、朝日南のDF・河野の胸板に激突。まるで壁だった。
「な……なんだこの当たり……岩か!?」
ボールはこぼれ、河野は無言で拾い上げ――ライン際へ。
そして、投げた。
ものすごいスローインだった。
「うおぉぉぉ!?ロングスロー!?ペナルティエリアまで届いてる!!」
朝日南のFW・赤木が、そのまま頭で合わせた。
──ドゴッ!
ネットが揺れる。
「一点だあああああ!!」
観客席がざわめいた。
「……今の、ほぼラグビーのラインアウトじゃん」
「ロングスローってあんな武器だったっけ……?」
──その後も朝日南は、異常なフィジカルで試合を支配した。
まるで“接触プレー限定”の戦術。
接近戦になるたびに、翠陽の選手が吹き飛ばされる。
0-3で、朝日南の勝利。
初の練習試合での快挙だった。
──
「勝った……マジで……」
「筋トレしかしてないのに……オレら……!」
熊田は、試合後の部員たちに向かって言った。
「まだまだ筋肉が足りん。だが今日、お前らの“体”は証明した。技術はこれからでも、フィジカルは嘘をつかねぇ」
歓声が上がる。
そのとき、翼がぽつりと言った。
「もしかして……このチーム、本当に強くなるかもしれませんね」
熊田はニヤリと笑った。
「当たり前だ。目指すは、日本一。ラグビー式でな」