エピローグ「筋肉と、仲間と、青春と。」
「お前ら、本当によくやった」
春の日差しが差し込む朝日南高校のグラウンドで、熊田監督は選手たちを前に帽子を脱いだ。
全国優勝から数ヶ月。
卒業を控えた3年生たちがユニフォーム姿で集まっていた。
「はじめは正直、サッカーなんてよう分からんかった。ラグビーなら丸いボールで人をどつけるのが仕事だ。でもな……お前ら見てたら、サッカーってのも立派な格闘技や」
赤木が鼻をすすりながら笑った。
「俺らも最初は、なんでラグビーの監督が来んねん!って思ってたっすよ。でも……今は感謝しかないっす」
「リフトで空飛んだの、一生忘れられへん」
翼がぼそっと言うと、鉄之介が吹き出した。
「それ、オレの背筋があったからだからな?」
七海が肩をすくめる。
「ま、あれで試合勝ったしな。筋肉も、やってみるもんだなって思ったよ」
熊田はにっこりと笑った。
「お前らが鍛えたのは、筋肉だけやない。“仲間を信じて動く力”や。ラグビーだろうがサッカーだろうが、それは最強の戦術や」
その言葉に、誰もがうなずいた。
やがて、鉄之介が声を上げた。
「そういや、監督は来年も見てくれるんすか? 後輩たち、けっこう楽しみにしてるっすよ」
熊田は少しだけ目を伏せた。
「実はな……ワシ、次は“アメリカンフットボール部”の監督を頼まれててな」
「ええええええぇぇっ!?!?」
全員が叫んだ。
「どんだけ楕円球に好かれてんだよ……!」
七海がツッコむと、赤木が言う。
「でも……熊田監督なら、どんなスポーツでも全国いけそうっすね」
「行ける行ける、スクワット100回でどこでも勝てる!」
爆笑がグラウンドに響いた。
そんな笑い声を背に、翼はふと空を見上げる。
(本当に、夢みたいだったな)
負け続けてたあの頃、自分たちには“何もない”と思ってた。
でも、筋トレして、走って、ぶつかって、信じ合って――
気づけば、自分たちは“誰にも負けないチーム”になっていた。
「じゃあ、最後に……アレ、やりますか」
七海が言った。
「もちろんだ」
「いくぞ――!」
全員が輪になり、叫ぶ。
「ラグビー式サッカー部、全国制覇!!」
「感謝ァァァァァァ!!」
笑い声と歓声が、春の空に溶けていった。