第十五話「筋肉、頭を使う」
「えーと……あいつら何してんの?」
赤木が呆然とつぶやいた。
全国準決勝の対戦相手――兵庫・星嶺学園。
試合開始5分、彼らは朝日南の守備陣をまったく崩す気配なく、
ただ淡々と横パスとバックパスを繰り返していた。
「なんか……シュート撃ってこねぇな」
「いや、それがやつらのやり口だ」
ベンチの熊田が言う。
「星嶺は“パス”で相手を疲弊させ、守備の集中を切らしたところで一気に仕留める。まるで蛇だ。締めつけて、動けなくなったら喰う」
確かに、朝日南の選手たちは無駄に走らされ、ジリジリとスタミナを削られていた。
「ちょこまかしやがって……パワーでぶっ飛ばせばいいのに!」
赤木がボールを奪い、強引にドリブルで突っ込むが、
3人がかりのプレスにボールを奪われ、カウンター。
「くっ……!」
右サイドを崩され、失点。
0−1で前半終了。
ロッカールーム。
静まり返る中、熊田はつぶやいた。
「パワーだけじゃ、どうにもならん相手だな」
だが、その目に焦りはない。
代わりに、選手たちに問いを投げかけた。
「パスってのはな、筋肉でできねぇもんか?」
「……え?」
「パスを“運ぶ”じゃなく、“ぶち込む”。筋力でゴリ押すんじゃなく、“筋力で繋ぐ”んだ」
鉄之介が首をかしげながら言う。
「それって……フルパワーで、味方にパスすんのかよ?」
「違う。筋肉の支点、軸、連動を使え。相手の想定より早く、正確に、そしてしなやかにパスを回せ。力を流せ。まるで……モールからバックスに繋ぐラグビーのようにな」
七海がハッとする。
「ラグビーで学んだ“連動”を、サッカーで使う……!」
後半開始。
朝日南が変わった。
球離れが早くなり、ワンツーやダイレクトパスが繋がる。
そして何より、体幹の強さと下半身の踏ん張りがあるため、
パスがブレない。
パスコースを潰そうにも、相手は競り負ける。
「なにこれ……ラグビーみたいなサッカー……いや、サッカーみたいなラグビー……?」
相手のDFが戸惑う中、
ゴール前で翼が赤木にワンタッチパス!
「おうよッ!」
赤木が踏み込む――かに見せかけて、股抜きスルー!
飛び出していた七海が抜け出し、GKと1対1!
「見えてるよ……ゴールが!」
七海のインサイドキックがネットを揺らす!
1−1!
ついに朝日南、戦術サッカーに“連携筋肉”で対抗!
ピッチサイドで熊田がうなずく。
「筋肉は、支え合うためにあるんだよ」
残り時間10分、勝負はここから――!




