第十三話「全身全霊、筋肉で止めろ」
全国大会・2回戦の相手は、大阪・神嶋工業高校。
筋骨隆々、まるでプロレスラーのような体躯の選手がそろい、ゴール前では「壁」というより「要塞」になると噂されていた。
だが、朝日南の選手たちは臆していなかった。
むしろ――
「なんか……あいつら、ウチらと同じニオイしない?」
赤木のひと言に、皆が思わず笑う。
神嶋工業のスタイルは「前プレ&ロングボール一発」――
体力と筋力でゴリ押す、超フィジカルサッカー。
つまり、ラグカー式と似ているのだ。
「なぁ監督、ぶっちゃけ……力比べってことっスか?」
鉄之介が問うと、熊田はうなずいた。
「そうだ。ガチンコの肉弾戦になる。ただし……向こうの方が“慣れている”」
「……ッスよねえ」
選手たちは武者震いをしながら、円陣を組んだ。
「やることは変わらねえ。ぶつかって、走って、勝つだけだ!」
「オーッ!!」
キックオフ。
立ち上がりから神嶋工業は猛攻を仕掛けてくる。
前線に放り込まれるロングボール、飛び込んでくる屈強なFW。
朝日南のDF陣は、跳ね返すので精一杯だ。
「こっちも負けてられねぇッ!」
鉄之介が相手のエースを正面から受け止め、強烈な体当たりで弾き飛ばす。
ボールはラインを割ったが、会場がどよめいた。
「うお……これ、ラグビーの試合じゃね?」
「サッカーってこんなにぶつかる競技だったっけ……?」
実況席も困惑するなか、熊田は小さくつぶやく。
「体力勝負なら……後半に勝機がある」
そう、ラグカーのトレーニングは無酸素運動と有酸素運動の融合。
“走れる筋肉”を作ってきた朝日南は、スタミナ勝負で神嶋に勝る。
そして――前半を0-0で終える。
ハーフタイム。
「相手は疲れてきてる。見たろ、戻りが遅くなってる」
熊田の指摘に、翼がうなずく。
「つまり……今からは、俺たちの時間ってことですね」
「そうだ。後半は、走り勝て!」
後半開始。
ラグカーはギアを上げた。
プレッシャーの速さ、パススピード、サイドの切り替え――
すべてが相手を上回る。
神嶋の足が止まりはじめた後半20分、ついにチャンスが訪れる。
左サイドの七海がドリブルで持ち込み、相手をかわしてクロス!
ゴール前には赤木!
だが、2人のDFが立ちはだかる。
「止められてたまるかァ!」
赤木は空中で体をひねりながら、ヘディングではなく胸トラップからボレー!
ドゴォンッ!!!
凄まじい音とともに、ボールはネットを突き破りそうな勢いで突き刺さる!
「ゴオオオル!!」
1−0、朝日南、ついに先制!
そのまま逃げ切り、2戦連続で勝利を掴む。
翼は喜びながらも、次の対戦表をじっと見ていた。
「……準々決勝、次は……青森の“風”か」
熊田がつぶやく。
「今度は“空気を読まない奴ら”だ。油断するなよ」
朝日南、次なる戦いは――
俊足揃いの「風のサッカー」との勝負!
(第十三話・了)




