第十一話「ラグカー、全国へ」
全国大会――その響きに、朝日南イレブンの心は高鳴っていた。
とはいえ、喜びに浸っていられる時間はわずか。
決勝からわずか10日後には、すでに初戦の相手が決まっていた。
「静岡代表、**清流館高校**か……」
熊田監督が資料を見ながらうなる。
「パスサッカーの名門。繋ぎと緩急で相手を揺さぶるタイプだな」
「ってことは……俺たちの“ぶつかるサッカー”が通じないってこと?」
翼が顔をしかめる。
熊田はニヤリと笑う。
「いや。通じないんじゃない。通させるのが目的だ」
「……それ、どういう意味っスか?」
鉄之介が眉をひそめる。
「“壁”を作れ。繋ぎたきゃ、繋げばいい。だが俺たちはその回路を断ち切る」
翌日から、朝日南は“囲い込み式ディフェンス”の猛練習に入った。
パスの出し手と受け手を、2人1組で挟み込む。
身体をぶつけすぎない絶妙な距離感で、パスコースを寸断する。
奪ったら即カウンター。トライじゃなく、ゴールへ!
その日々の中、熊田は翼にだけ、別メニューを課した。
「お前には今回、**指揮官**になってもらう」
「……ぼくが?」
「お前だけは全体を俯瞰し、パスの流れを読むんだ。囲い込みのタイミングを味方に伝えろ」
「無理だよ、僕そんな……」
「やるしかない。お前の頭脳があればできる。あとは自信だ」
熊田の言葉は厳しかったが、どこか温かかった。
そして――
全国大会、開幕。
舞台は埼玉スタジアム2002。
テレビ中継、客席には1万人を超える観客。
舞台が違えば、空気も違う。
「ようこそ、全国へ」
清流館のキャプテン・細野が、爽やかに笑う。
そのプレースタイルはまるで“水の流れ”。
ひとつひとつのパスが滑らかで、相手に触れさせない。
前半15分。
朝日南はなす術なく、綺麗に崩されて1失点。
ベンチの熊田も腕を組んだまま、じっと見つめている。
「さすがにここまでか……」
観客席から漏れる声。
だが、その時。
「今だ、囲め!」
翼の声がピッチに響く。
宮本と七海が動き、細野の前後をピタリと塞いだ。
「え……?」
一瞬の迷い。その隙を、翼がついた。
「もらった!」
刈り取ったボールを、即座にカウンターに繋げる。
赤木が走り、鉄之介が引きつける。
翼が再びパスを受け――
「打つぞ!」
30メートルのロングシュートが、ゴール左隅へ突き刺さった。
ゴォォォォォル!
歓声とともに、試合は振り出しに戻る。
ベンチで、熊田がうなずいた。
「よし……“水”には“堤防”で対抗だ」
朝日南ラグカー部、ついに全国で牙をむく!