第十話「空を制して地を征す」
――前半18分。
東海付高の怒涛の空中戦に対し、朝日南は懸命に耐えていた。
「赤木、鉄之介、前で潰せ!」
「宮本、落ち球の位置を読め!」
熊田の指示が飛ぶ中、朝日南の最前線では異様な攻防が続いていた。
東海付高の190cmトリオ――通称「空の三銃士」。
その跳躍は圧倒的で、普通の高校生なら競ることすらできない。
しかし。
「ハアアアアッ!」
赤木が、鉄之介が、限界まで膝を沈め、爆発的にジャンプする。
「くっ、こいつら跳ねすぎだろ……!」
東海のFWたちも驚き始めていた。
フィジカルと跳躍を極めた朝日南の“空中タックル”は、正当な競り合いの形で東海の攻撃を次第に削いでいく。
そして、空中戦の裏で――翼が静かに息を潜めていた。
「……次、来る」
宮本の分析どおり、跳ね返されたセカンドボールがペナルティエリア手前にこぼれ落ちる。
すかさず、翼が動いた。
「トォッ!」
地上の“狩人”――翼が拾い、トラップからの一閃!
ボールはDFの股を抜け、ゴール右下へ転がる。
ゴォオオル!
「翼うううぅぅッ!!」
ベンチが総立ちになった。1-0! 先制!
「……落ちたら俺のボールだって、最初から決めてた」
翼は小さくガッツポーズを作る。
空を制する者が華なら、地を征する者は影。
だが、その影がなければ勝利はなかった。
そして、さらに。
後半30分。再びコーナーキックのピンチ。
東海の三銃士がエリア内に入る。観客がどよめく中、熊田の声が響く。
「“浮かせて潰せ”作戦、発動だ!」
「は!?」
味方が密集し、敵3人を囲い込む。その中央で――鉄之介が再び跳ぶ。
「うおおおおおッ!!」
体ごとぶつかるようにして、空中で相手FWを正面から押し返す!
審判はホイッスルを吹かない。競り合いは正当だった。
ボールが再びこぼれる――!
「任せたっ!」
翼が滑り込む。
つま先に当たったボールが、逆サイドのスペースへ流れる。
走り込んだのは、サイドのスピードスター・七海。
「見てろよ、これが“ラグカー式カウンター”だ!」
七海がドリブルで一気に50mを駆け抜ける!
右には赤木、左には鉄之介が並走。
3人の連携から、最後は赤木がトゥキックで叩き込んだ。
2−0!
会場が爆発するような歓声に包まれる。
東海の選手たちは膝に手をつき、うなだれていた。
そして――試合終了のホイッスル。
勝った。朝日南、全国大会東京都予選・優勝。
部員たちは歓喜の輪を作る。
熊田は腕を組んだまま、黙って空を見上げた。
「空を制したら、次は……世界だな」
誰にも聞こえないように呟いたその言葉は、確かに未来への狼煙だった。




