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十三斗  作者: yomi
第1章「非日常編」
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第5話 銃は踊る

 霧の気配が濃くなるときはこいつが一人で行動するときだ。青山崩方あおやまくずしかたは非常に警戒心が強い。一人で行動するときはアジトの霧の気配はいつもよりも濃くなる。その時間帯を狙っていた。殺すのは頭だけで良い。

 僕は更に相手との距離を詰める。右足を半歩。左肩を僅かに引きつつ前へ。その一動作に1.3秒。顔は常に平常心に。無関心に。

「おい、ガキ。今、俺は霧を『濃霧』に切り替えた。さっさとどこの組織のものか言わねーと、痛い目見るぞ?」

 出た。本性。こいつ短気だなぁ。対話とか苦手なのかな。まあ…。


 只。ようやく、ここまで来た。

 僕の射程範囲内に。


 僕は小首を傾げる。圧倒的に無害な姿を見せる。

 瞬間。

 ーーーカチャリ。

 空気が裂けるような音と共に、僕の手の中に”それ”が現れる。


 銃。

 それは僕が選んだものではなく、僕を選んだもの。


「…じゃあ、撃つね?」


 僕は目を細めた。

 言葉はまるで雑談の続きみたいに軽く。けれど指は正確にトリガーにかかっていた。


 半歩相手が後ろに下がる。反応はそこそこ。

 しかし、その頃には僕も既に数歩踏み込んでいた。


 一瞬の跳ねるような踏み込み。

 重心を右足に預けながら、身体を半身に絞る。

 照準が、青山の眉間に合ったその瞬間ーー


 パンッ。


 発砲音が、室内に乾いた悲鳴のように響いた。


 僕は動かない。青山も動かない。沈黙の中、硝煙の匂いだけが、時間を切り裂いていった。



「…っ!」

 弾は青山の左こめかみに僅かにかすっていた。

 そこから赤い血が垂れていく。


 青山は、ゆっくりと額を触る。指先に、滲む血。


「お前…。只者じゃねぇな。どこの組織だ?あぁん?」


 僕は銃を傾けたまま、首をコテンと傾ける。


「言わなきゃダメ?」


「は?」


「だってさ、言ったところで…。なんか。信じてもらえないと思うし…。その…。」

 僕はわざとモジモジした様子で答える。この辺も適当である。そっちの方が、相手も油断するでしょ。多分。


「試してみろよ?あぁん?」


「…。十三斗。」


「…は?こいつ、マジかよ。面倒臭ぇ…。十三斗か。めちゃくちゃ厄介じゃねえか。」


「あれ?割とすぐに信じるんだ?」


「そんな嘘つく意味ねーもんな。しかも十三斗にはお前みたいなガキが何人かいるって噂は聞いたことあるしな。」


 誰だよ。そんな噂流したのは。僕もちょっと有名人だったりして?


 僕は銃口を、今度は額のど真ん中に合わせる。

 笑っている。でも。


 目は笑っていない。


「もう、お前相手に遅れは取れねえな。『猛霧もうむ』。」


 その言葉と同時に、空気が歪む。

 視界が、じわりと揺らぐ。脳の奥が締め付けられるような感覚。

 麻痺、意識混濁、行動不能に近い状態まで持っていく青山の本領。


 んー。換気しておいたのだけれど。あんまり長く喰らいすぎるのは良くない系ね。

 ほんの一瞬の遅れ。そこを突かれた。


 カッ!


 青山の手が、銃を持った僕の右手を、掌底で正確に弾く。


「…っ!やべっ。」


 銃は宙を舞い、カラン、と音を立てて床に落ちる。


「悪りぃな。一気に決める。『凍青いてせい』。」

 右手に冷気を伴う霧を集め、それを氷結させる。


 それを一気に僕の喉元目掛けて突き刺さそうとする。


 パンッ!


 青山の右手から血がボタボタと垂れ落ちる。


 二つ目の銃の弾が命中した。


「二丁の銃を使ってるのか…。」


 流石に面食らったというような顔をしていた。

 すかさず僕は、もう一度発砲する構えを取る。


 ヒュ…。


 風が動いた。


 相手は完全に目で追いきれていない。背後へ回る。

 背後から相手の頭を目掛けて発砲する。


 パンッ!


 ギリギリで相手は躱す。

 弾は背後の窓に命中し、窓ガラスの破片があたり一体に弾け飛ぶ。


「おいおい。なんちゅうスピードだよ。出鱈目な…。」


 だが、相手の目には確信があった。次で決めるという。


「次の引き金を引く前に終わらせるっ…!『盃迷路さかずきめいろ』。」


 ぐにゃり。


 一瞬、景色が歪む。

 僕の空間認識脳力を鈍らせる。


「決まったっ!」


 パンッ!


 弾は今度は相手の左脇腹に命中する。


「そっちの霧の攻撃は僕には、ほとんど効果がないよ。もう全然、密室ではなくなったからね。」

「窓ガラスを狙ったのもわざとか?舐めた真似をしやがって…。」

「一瞬なら喰らうけれど、そんなには持続しない。今日は風も強い日だしね。」

「こいつ、全部計算だったってことか?こんなガキにやられるわけにはいかない!」


 焦りが分かりやすい。やっぱりこの人短気じゃん。


「死ね。『酩弾めいだん』!!」



 成程。瞬発性を活かした技。霧の圧縮爆発で意識を一気に刈り取る。

 でも。

 あまりにも大振り過ぎる。短気は損気だと良く言ったものである。


 僕は左手で三つ目の銃を取り出し、今度は右脇腹を狙う。


 バシュッ!


 見事、命中。相手の大きな体がよろめく。

 その隙に、最初に弾かれた銃の元へ向かう。

 足でその銃を空中に蹴り上げる。

 と、同時に両手に持っている銃もリズムよく空中へ投げる。

 シャッ、シャッ、カチッ。


「そこ。危ないよ。」

「…っ?」

 その瞬間、銃が空中で入れ替わる。

 回転する軌道の中で一つは中指に収まり、一つは右手に転がる。そしてもう一つは、まだ空中にある。



 ーーパァンッ!

 一発。

 青山の左肩に、命中。


「ぐぬううっっっ…!っ…!!」


 目の前で大きな体がひっくり返る。一発目に青山の左こめかみに僅かにかすっていた弾は、そのまま後ろの酒瓶を置いていた台に命中していた。

 この瞬間酒瓶が足元にくるように。

 皮膚をかすめる程度の浅い弾道であれば、弾丸は減速せずそのまま飛び抜ける可能性が高い。脳を傷つけないレベルのかすり傷なら、「貫通力」はほぼ失われない。

 今まさに、その酒瓶に足元を取られ、更に青山の体勢が崩れる。


 もう一回転。銃は再び空を舞う。

 決着は、次の一発。

 静寂を切り裂いて、最後の弾丸が飛ぶ。


 ーーーそして、白銀組の頭領は、静かに倒れた。

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