第4話 そろそろ狩るか…♠️
「おお。いつ見てもすげーよな。」
驚いた目つきで僕の方を見てくる。僕はジャグリングが得意だ。今も、シャーペンと消しゴムと定規でジャグリングをしている。片手で。
まあ、このくらいなら目を瞑ってでもできるんだけれど。
指でくるくると物を動かすのも得意だ。なんか昔から手先だけは器用だった。手先だけはね。
実際、形も形状も全く異なる物でジャグリングを行うことは相当難しい。ジャグリングは、等間隔の回転と落下が前提なので重さも形状も異なると相当やりにくい。でも。ボールだと簡単すぎるし、学校での暇つぶしには文房具を使うのが最適だろうという理由だけで、よくこの三つでジャグリングをしている。
「お前の手…どうなってんだよ。」
今度は片手で、その三つを同時にクルクルと回転させてみる。シャーペンは細長く転がりやすい。消しゴムは軽くて不規則に跳ねやすい。定規は薄くて風に流されやすい。これらの理由から扱いがバラバラすぎるのでやっぱり常人には難しい。
でもやっぱりこれも目を瞑ってでもできる。
僕の手の中で、シャーペンが回る。消しゴムと定規も小指と親指でリズミカルに遊ばせる。これは授業中にも暇つぶしによく行っている。
「高木って器用でよく分からん小技を持ってるよな。なんか、そんな可愛い見た目してるのとギャップあるわ。」
「うーん。」
あんまりよく話を聞いていなかった。ほぼ無意識で指を動かしているので、全く別の考え事をしていた。
僕が把握しておくべきことは、相手の組織の大きさ。特に人数の把握は重要。後はアジトを突き止めないとねー。まあ、その辺は、大丈夫そうかな。まあでもなるべく楽に勝ちたいよね。
そろそろ…狩るか。
みたいな密かにヒソカっぽい言い回しを思いながら嫌な仕事をどんどんこなしていくしかなかった。
ーーーーーーーーーーそして、一ヶ月の月日が流れた。
「ええっと。この辺かなぁ。」
間違いない。気配も尋常じゃないし。隠しているし。
まあ。乗り込むしかないよね。しかも単身だよね?えぐくない?まだ14歳のか弱い男の子が単身、詐欺師集団のアジトに乗り込むだなんて。我ながらとっても可哀想だよ。哀れな僕。
なので。
さっさと終わらせよう。
時刻は夜の11時30分。この時間なら誰もいない。
「まあ。そんなに大したことない結界だよね。」
霧の中に侵入していく。気配を殺すのも得意な方だ。ビルのドアに手をかける。
「まあ、鍵かかってるよねー。」
ガチャガチャと何度かドアを開けようとするも開かない。予想通りだけど、鍵が空いていれば楽だったよなーとは思う。細い金属のような器具をポケットから取り出し、ピッキングを行う。
「これをこうしてっと…。よし。」
ガチャン。
その音と共に、鍵が開く。ゆっくりとなるべく音を立てないようにビルの中に入っていく。
「えぇっと…。僕が把握している情報によると、確かこの辺に…。」
ーあ。あった。
金庫である。この中に今まで詐欺行為を働いてきたお金が入っている。
「ええとー。ダイヤルの番号はーっと。」
カチャカチャとダイヤルを回す。思ったよも順調に事が進んでいく。金庫もすぐに開いた。金庫の中のお金を回収しようとしたその瞬間。
気配。
ガチャリ。
ドアが開く。僕は一瞬で物陰に隠れた。後ろに思いっきり跳び着地の音を立てないように静かに着地する。
「誰だ?」
青山の声だった。青山崩方。武界では白銀組という組織の頭領だ。関東の出身だと聞いている。
全く関係のない話だが僕はタコ焼きが好きだ。しかし、タコは嫌いなので、いつもタコ抜きにしている。そうするとよくみんなから、「それはタコ焼きではなくただの焼きだ」と言われるが、いつもよく分からないなぁと実のところ思っていた。
因みに、タコ焼きが好きなことと僕が大阪出身なこととは関係がない。多分。僕はそう思っている。
「おい。誰かいるのは分かってんだよぉ。さっさと出てこい。」
そうそう。こんなこと考えている場合では本当の本当にないんだよね。この状況。まあ、ここで青山と遭遇してしまったらしてしまったでそっちのパターンで作戦を進めよう。相手は一人みたいだし。
理想はこのまま隠れた状態で銃で撃ち抜く、だよね。
ーーーまたその瞬間。
気配。
だが、これは人の気配ではない。武界の武器の気配だ。
上を見上げると微かに「霧」。
多分これを吸い込んではいけない。
「隠れている奴。これは『微霧』と言って、軽度の酩酊、集中力の低下を促す。さっさと出てこないと『濃霧』に入り変える。『濃霧』までいくと視界の乱れ、幻覚誘導を促す。」
なるほどね。まぁ、相手の武器の力はほぼ想定通り。ここは一旦…。
「ごめんなさい…。迷い込んじゃって…。」
有り得ないのだけれど。こんな所に迷い込むなんてことは。それでも僕はなるべくか弱く、怯えた目で訴えかける。
「下手な芝居はやめるんだな。有り得ないだろ。偶然で、こんな所に迷い込むなんて。」
まあ。そうだよね。
うん。圧倒的に正論です。
「野良猫を追いかけていたら…。つい、ここまで…。」
「…。お前、ベインズじゃねーだろ?俺の霧をすり抜けた訳だし。どこの所属だよ?」
「んー。どこの所属とか言われても…。」
「まあ、だがお前みたいなガキだとは思わなかったがな。俺は油断しない。どれだけ、弱気に振る舞おうが、実力の底は知れない。武界においてはお前みたいなガキでも実力者であることも珍しくない。まあ、ほとんど有り得ねーけどな。」
1ミリほど、相手との距離を詰める。少しでも射程圏内に。ほとんど相手からは動いていないように見えるような形で、会話をしながら絶妙に距離を詰める。
「凄い警戒心のところ申し訳ないのだけれど。僕は本当にただ迷い込んだだけで…。」
1ミリ1ミリ距離を詰めていく。そして僕はポケットに手を近づける。
「お前の武器はなんだ?まあ、自分から話す訳ねーか。お前こそ、そんなに警戒すんなよ。悪いよーにはしねぇ。まあ、俺の話からしてやるよ。俺の武器は『酒』だ。『青霧』って言ってなぁ、日本酒を霧状にして吹きかけることで相手の五感に直接作用する。」
そんな詳細に武器のことを話してくれるなんてね。それは圧倒的に油断している証拠。まあ、後は僕の得体が知れないからね。僕の警戒心を解いて、どこの誰なのかを知りたいってことなんだろうね。こいつの目的は僕を殺すことではなく、僕の正体を把握してから殺すか人質に取ること。まさか単独で動いているとは相手も思っていないはず。
只。ようやく、ここまで来た。
僕の射程範囲内に。