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新しい職場の上司がほぼ日「求婚」してくるのが、正直真面目にウザイです。




「単刀直入に言おう。――クラリス、私と結婚してほしい」


「え、嫌です。寝言は寝てから言ってもらってもいいですか?」





 むしろ、仕事をしてください。



 明日提出の会議資料をまとめながら、私は顔を上げることなく執務室の机でペンを走らせていた。窓際に座るユリウスが、「今日もまた失敗か」と呟き、さして残念そうでもなくノートに何かを書きつける。


 その様子を横目で見ながら、私は椅子から立ち上がった。


 手元の資料を片付けるため、近くにあるガラス戸に足を向ければ銀色の鏡のようなフレームに、目つきの鋭い自分の顔が映り込んでいる。


 茶色の髪に茶色の瞳。どこにでもある凡庸な顔立ちで、取り立てて目を瞠るような特徴はない。


(一体どうして、こんなところで、あんな奴の護衛をしながら求婚なんてされないといけないわけよ)


 ガン、と拳を軽く叩きつければ、背後から「どうかしたのかい?」と少し驚いたような声が聞こえた。


(我慢。我慢よ、クラリス・カートライト)


 のんきな声に、ナンデモアリマセン、と冷静に言い捨てて深呼吸を繰り返す。


 今日はこの後、前の職場の上司と元同僚が屋敷の警備状況を確認しに来る予定だ。


 その時に、ユリウスの護衛が自分にとって非常に困難なこと、配置換えが無理なら、せめて一時的でもいいので腕の立つ団員をもう一人補充して欲しい旨を書き連ねた要望書という名の嘆願書を提出する予定だ。


 本来なら騎士団の詰め所で行うはずで、クラリスが出向く予定だったのだが、今朝になって急遽予定が変更され、彼らがこちらに赴くことになった。


(――また、何か裏で手を回したんじゃないでしょうね?)


 じとりと護衛対象でもあり臨時の上司でもある、ユリウス・アルヴェントを睨みつける。


 この国一番の大魔導師であり、貴族の令嬢たちの間では「今、一番嫁ぎたい男ナンバーワン」と囁かれている完璧な美貌と最悪な性格の男。


 流れるような白銀の髪、深淵を思わせる紫の瞳。女性がうらやむほどきめが細かく陶器人形のように美しい白磁の肌。誰もが一瞬で心を奪われる美貌の持ち主―― らしい。


 残念ながら、初対面からいい印象を抱いていない自分には全く当てはまらないのは確からしい。


(はぁ……どうしてこんな面倒なことになったのかしら)


 早く約束の一ヵ月が過ぎてほしいと思いながら、私は再び資料をまとめる作業に戻る。護衛官としての仕事だけの

つもりだったのに、なぜか彼の領地の事務処理まで手伝わされているのには、いくばくかの事情があった。


「クラリス、ちょっとこの資料を見てもらえないだろうか?」


 にこり、と完璧な美貌を浮かべながら、ユリウスが紙をひらりと差し出す。


 忙しい時ほど絡んでくるこの男の能天気さに、思わず「へ」と顔が歪みそうになるのをこらえ、ぐっと唇を引き結んだ。


(ダメよ、クラリス。落ち着いて。いつものペースに乗せられてはいけないわ。お金のため……そう、お金のために、あと十日。たった十日我慢すればいいだけ)


 複雑な事情から、希望の異動を無理矢理止められ、 よりによって 目の前のキラキラした大魔導師の護衛官という不本意な役目を押し付けられた経緯については、約二十日ほど時を遡らなければならない。







はじめまして。

とびかかる猫と申します。


ゆっくりペースですが新連載スタートさせていただきます。

別ペンネームでアルファポリス様にも掲載させていただいております。


溺愛×ちょっと偏愛×コメディ織り交ぜつつ×くすっと笑ってもらえるような、楽しいラブコメを書ければと思っております。


隙間時間に楽しんでいただけたら嬉しいです。


ちょっとでも面白いと思っていただけたら、いいねやブックマークで応援していただけると嬉しいです。


どうぞよろしくお願い致します。


とびかかる猫

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