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樹登りは命懸け〜@異世界〜  作者: ぼここ
1.雲の海の底の森の中の
9/19

9.憤怒する牛



迎え撃つの?!


俺が言うのもアレだけど、キリンでさえ目眩まし程度の攻撃しかできてない。何か策でもあるのか?

あるんだろうな。


「目的は時間稼ぎだ。ボクが目眩まし、カワセミは囮、エルは忍んで片足でいいから行動阻害を狙う。成功しようがしまいが先に走り出すからボクを追え。そこでトドメの準備をする」


俺は囮をどうするか質問する前に言われる。


「一旦ボクのこのマントとその青い服を取り替えてくれ、もし目でも追ってるならボクが引き付けられる。どちらにせよひたすらこの方向に逃げてくれ」


囮も請け負われてるじゃん。

細かいことはいいや、やるしかない。

ダンカンさんの緑マントは水分を少し吸ってるのか見た目より重く感じる。紐で肩周りに何箇所か留めようとする、着方が分からずそれをダンカンさんにやってもらった。

お返しに登山服着させようと思ったら、袖を通して、少しチャックを見てからすぐに上げた。

まぁ、それくらい着れるか。


「行動開始だ」


俺は走り出す。

走ると言っても全力疾走なんでできやしない、森の中だから木の根で凸凹だ。根の上に足を置けばいいってもんでもない、踏んで足裏でグリップを確認してから滑らない程度に体重を乗せて、グリップが効く範囲の力で蹴り抜ける。それを走りながら一歩一歩幾繰り返し茂みがあれば避けるか突っ込むか、少し先も見る。

複数のルートがある、迂回したほうが速い遅いある。方向を決めるために視線を上げた一瞬で正解を選んで、足元に視線をおとす。

何回滑りかけてヒヤリとしたか。


それを続けてなお、重鈍な木の揺れが迫ってくる。まだ2人は仕掛けてないらしい、たぶん次の雲の濃い部分に突っ込んでからだろう。


巨大な木の枝に森のように生え茂るこの草木は、宿り木の一瞬なのかな。一瞬だけどうでもいいことがよぎった。


雲の濃い部分に入った。

ここで俺も少し仕掛ける。

一旦左に曲がって、10メートル行ってから右に曲がり方向を戻す。もし、あれが真っ直ぐいけば俺を見失うかも。

少しはしって森の縁が見えた。

森の景色が見事に途絶え見通しの良い斜面そして崖。真っ直ぐいけば俺が飛び出しただろう場所は

草木が少し飛びたした感じの崖になっている。


枝の方向は?

すぐそこか、こっち来て回り道にならずに済んだ。

このまま枝に突っ込んで2人をまつ。

それで2人は?

んっ?


すでに険しい表情のダンカンさんが杖ぶん回しながら、立っていた。俺が出たはずの辺り。

よく見ると森の乗っている薄皮の地面にがひび割れ、滑り落ちかけて広くなった場所。

俺は何をするのか目を離せなく緩く走る。


視界の開けたダンカンさんの前に牛型が飛び出してきた。

ダンカンさんとの距離は鼻先数センチ。かなり盛った。

ダンカンさんは焦ることもなく、杖で地面を突いた。


牛型の足音よりもおおきな枝の揺れ。

森がざわめき、すでにダンカンさんは青い服を翻しながら牛型の脇をすり抜け森に突っ込んだ。

反対につんのめった形になった牛型は、切り返すために足を踏ん張らせた。滑り転んだ。


それからミシミシと、その当たりの森が、地面が音をあげる。


表現するなら、森の一帯が滑り落ちていく。地滑りだ。

枝の上に薄い地層しかできず、底に根を張りつなげてできた森だから、その根を切ってそうしたのか。

さらに数カ所の破裂音。

森が加速する。

とんでもない、ダンカンさんは森ごと牛型を落とすつもりだ。


足を止めて息を呑んだ。


森の影に白い影、エルさんもいる。破裂音の1部を請け負っていたのか、ダンカンさんの意図を汲んだのか。


牛型を起こさせまいと、薄くなった森の地面を打ち抜き 足場も崩す追い打ち付き。


「すご」


魅入ってしまった。

そして、偶然にも牛型と目が合う。


牛の表情なんてわからないだろと思っていたが、あれは怒りだ。とんでもない血走った目の怒り。


「えっ」


そいつは滑り落ちる方向に走り始める。

それはあいつにとって幸いで、ダンカンさんたちの射線から見切れた。

そのまま、落ちる地面に生える木の幹を蹴り跳ぶ。

宙を飛び、その先にある枝に片手で取り付き、ぶら下がった。


俺が失敗したようなやつをやりやがった。


掴み体重のかかってしなった枝の反発を使ってさらに垂直に飛び上がった。

もう一つ上層の枝。つまり俺がいる枝に取りついた。揺れる。


「アクションゲームかよ」


状況に一気に肝が冷える。

ダンカンさんとエルさんとの距離より、あいつとの距離の方が近い。

巻こうとして、進行ルートを変えたのは失敗だった。


「グゴゴゴォゴゴォォ」


吼えた。

牛型は一瞬で枝の上に立つ。


突っ立ってないで隠れてれば、変に仕掛けなければ、ダンカンさんたちの横にいられたのに。

そもそも匂いに釣られなければ、蜂の巣だって、子猫だって。


いや、それらは置いておく。

足を少しずらして、地面の感触を確認する。


俺にできることなんてない!

嘘、まだある!逃げろ俺!


まず時間がない。

そんなこと考えてる暇がない。

枝側に走り出す、ペースは上げすぎず思考にリソースを割く。


あの巨大かつ高速動作を捌いて退くのは俺じゃむり。ならばどうする?

もうすぐ、細か目の枝を抜けて俺のいる太めの枝に乗ってくる。そしたら……?

ナイフじゃ心もとなすぎる、2人の助けは期待していいもんじゃない、いっそのこと枝から飛び降りる? ありかもしれない。下の枝までは、まともな高さじゃないけども最終手段だ。

少し、ほんの少しだけ気持ちが楽になった。



とりあえずナイフを手に持っておく。


やれないじゃ、駄目か。

やるならタイミングだ。

ん、降りても絶対についてくんじゃん!


走りながらナイフを目の前に持っていく。

小さいが銀色にメッキされた部分がある。ぼやけて曲面でよく見えないが、走りながらタイミングをつかむのは十分だ。


腰をおもくそ落として急ブレーキ、頭の上を通り抜けた風圧で髪がもってかれる、マントは少し重く翻る。

切り返して直ぐにダッシュ、ヤツの脇をすり抜けた。ダンカンさんがやったやつ。そしてもう一度ストップアンドダッシュ。ようはもう一度切り返して、森の方へ向かう。

巨体は風を切る速度で振り返る。だけど仕掛けた俺の方がワンテンポだけ速い。加速度は俺が速い、これでいったん距離を離してやる。


ついでに足首を斬って通り抜けてやろうと思った。

ちょうど視界に赤く汚れた部分を見つける、たぶんエルさんがやったやつか。追撃してやる。


ドンっと見ていた視界がすべて更新される。

牛型が腰まで崩れ落ちた、何のため?

もちろん俺を通さないためだ。俺の前方180度くらいがすべて牛型の体毛になる。


まずっ!


行き場を失って足が止まる、

正解は分からないけど、これは悪手だった。


追い詰められた。


手が両上側から迫る。叩きつけられる。

いや掴まれた。


折れるっ!


痛みで目を瞑ってたけど、なんとか開けて牛型に向ける。

ナイフで刺そうにも手首すら動かない。

締め付けられるってこんな感じなのか。


牛の顔はとにかく汚いと思った。

口鼻周りは鼻水とよだれだらけな上に、土とかの汚れがこびりついている。

形相からくる深く覆いシワのなかもそんな感じ。

息がしっとり温い。


そして左目は潰れていた。

何か縦に切られたのか、傷跡には毛が生えていない。

片目の視線を一寸も動かさず、睨みつけられる。


「ぜみ」


そういう音が聞こえた。


「ぜみぃぃぃぃ」


状況に圧倒される。

なんで、掴まれてんだ。

なんで、俺にキレてんのか。

なんで、俺の高校のあだ名を知ってるのか。


「なんだお前は!」


ヤケで叫んだ。


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